17才の花嫁(第2章)-1
智花は全身が冷たくなっていくのを感じていた。(朋美にこんなところを見られるなんて…)
章朗は狼狽していた。
「違うんだ、違うんだ」
朋美に向かって両手を広げて振った。
「何が違うの!」
軽蔑と悲しみの入り混じった表情だった。朋美の目には怒りが滲んでいた。
「この子が俺を誘惑したんだよ!」
章朗の嘘に胸をえぐられた気がした。
「違います!朋美ちゃん、私、襲われたの!」
服装を直した智花は涙声で訴えた。
「感じていたじゃないか!下着を濡らして」
「そんなことありません!」
朋美は軽蔑のまなざしで章朗と智花を睨み付けた。
「どちらが悪いのかわからないけど、病院へいってお母さんに報告するわ」
「朋美、待ってくれ。珠代には内緒にしてくれ」
章朗は悲壮な声を上げ、部屋を出た朋美を追いかけていった。
ひとりになった智花の胸は悲しみに浸された。
(叔父に襲われるなんて…。私はもうここで暮らせない)
珠代の夫としてのみ見ていた章朗が獣性をむきだしにして襲いかかってきたことがショックだった。
(明日、どんなふうに顔を合わせたらいいの?)これからのことを思うと、不安が津波のように押し寄せてきて、智花は眠れなかった。
翌朝5時、智花が朝食の支度をしていると、眠い目をこすりながら章朗がキッチンにはいってきた。心の中にある嫌悪感を見せないよう心がけて、挨拶をする。
「智ちゃん、ゆうべはわるかった。酒を飲みすぎたら、急に冗談をしたくなった」
「あんな冗談はいやです」
「ほんとうにわるかった」
章朗は頭を下げた。
(あれが冗談だなんて、ひどすぎる)
智花は章朗を許す気にはなれなかったが、これからも一緒に暮らすのであれば、問題を大きくしてはいけないと思った。
(早く朋美が起きてくればいいのに…)
章朗と二人きりでいる時間を作りたくなかった。強引な指の愛撫にからだが反応してしまったことも恥ずかしい。
(いつまた襲われるか、わからない…。気をつけなくては…)
食事の支度が終わったころ、朋美が起きてきた。顔を洗ってキッチンにはいってきた朋美の表情にいつもの明るさはなかった。
気まずい空気の中で食べる朝食はおいしくないなと、智花は感じていた。
「お父さん、昨夜のことはお母さんには言わないから…。もう絶対やめてね」
「ありがとう。反省してるよ」
章朗は悪びれた声で答えた。
「智花ちゃんもお父さんを誘惑しないでね」
「誘惑なんてしてません!」
否定すると朋美は、怒りを含んだ視線を送ってきた。が、それ以上何も言わなかった。
朝の食卓に、前日までとは打って変わって沈んだ空気が流れていた。
(この家にいてはいけないのかもしれない)
暗雲がたれ込めてきた気配を感じ取った智花だった。
悪夢のような夜から5日が経過した。部屋に鍵を掛けて寝るように心がけていた。章朗は反省しているのか、以前のように食事のときに冗談を言わなくなった。
(不透明だ。以前にも増して不透明な気がする。油断してはいけない)
そんなふうに考えた。
夜、食事が終わってから、自分と朋美の下着を洗濯しようと、汚れ物入れを開いたとき違和感を覚えた。妙な匂いがする。気になって、匂いの元を調べてみる。どうやら智花が脱いだ生理ショーツから匂っているようだ。広げて見てみると、下着の股布の内側に、白いものがこびりついていた。鼻をつく強烈な匂い。(もしかして男性の精液?)
智花の全身に悪寒が走った。
(叔父が、私の汚れた下着を穿いて、自慰行為をしてる)
智花は吐き気をもよおしそうになった。
(早くこの家を出なくては…)
嫌悪感にまみれながら、下着を洗濯機に放り込んだ。
叔母は明後日には退院する予定になっていた。
(叔父とのことを話すべきか…)
智花は苦悩する。すべて話せば、家族に亀裂がはいることになるだろう。智花はその夜、しばらく寝付けなかった。