罠にかける-1
渉から渡されたメモに書かれていた倉庫にやってきた由衣。
「ここかぁ・・・。渉のやつタイマン勝負だなんて、メッチャなまいきだしぃ!」
赤いランドセルを背負ったまま、学校からここに直行してきた。Tシャツにハーフパンツというラフなスタイルだ。
「おう、よく逃げずにきたな、由衣。おまえ、よくも俺のことを先生にちくりやがったな! おかげで道場で説教を食らってえらい目に遭ったじゃねーか! 日頃から威張りやがって気に入らねーんだよ。ぼこぼこにしてやるぜ」
「あんたが悪いんでしょう、5年の女の子のこといじめたでしょ? 弱い者いじめなんて空手を学んでいるものとしてサイテーだよ。叱られていい気味だよ。それにさぁ、あたしとタイマン勝負で勝てると思ってんの? ばっかじゃない! 」
おかしそうに笑う由衣。背負っていたランドセルをその場に下ろす。
「馬鹿かどうかやってみないとわかんねえだろ、いくぜ!」
由衣に向かって構えると渉は胸元に右拳を叩き込む。
「無駄だって!」
左半身に構えた由衣はさっと体をさばくと拳が空を切る。
「おらぁ」
次いで右ひざを繰り出す渉。由衣はパッと左腕でよけて体をさばく。
「そんな攻撃じゃあたしにはかすらないって」
さすがに女子とはいえ空手の全国大会で優勝するだけのことはある。渉とて道場では選手の筆頭だが、格が違う感じだ。
「くっそ、馬鹿にしやがって」
渉が足を狙いローキックをはなつ。由衣はひざをスッとあげて蹴りをカットする。
「だからぁ、無駄だって。 今土下座すれば許してやるよ」
「チキショー」
近くにあった棒切れを掴み。
「おらぁ!」
由衣をめがけふりかぶる。由衣はサッとかわし、余裕のミドルキックを脇腹に喰らわせる。もちろん手加減を加えている。
「そんなものもったって、あたしに勝てるはずないだろ。むしろ遅いって」
「ぐえ〜」
呻き声をあげながらその場にひざをつく。
「くっそ〜流石に効くぜ!」
「バカじゃん。無理なんだよ、あたしに勝とうなんてさ・・・。どうすんの、まだやる気?? 早く土下座して謝んなよ」
「さすがにタイマンじゃ無理か、おい、お前ら」
声をだすと数人の同じ道場の男子が物陰から姿をあらわす。
「な、なんだよ、おまえら??」
ぞろぞろ出てきた男子を睨みつけるが、さすがに顔がこわばっている。
「馬鹿か、初めからタイマンなんてする気はないんだよ。いくらお前が空手チャンピオンだからてこれだけの相手に勝てるか?」
由衣を囲んだ男子たちがじりじりと間合いをつめてくる。さすがに青ざめるゆい。
「 卑怯者! 女一人にこんな大勢で・・・。かかってきなよ。その代わり本気出すから、怪我だけじゃすまないかもしれないよ」
気丈にも男子たちを威嚇する。
「それ、かかれ!」
合図とともに左右から由衣にむかっていく。まず左右から二人がパンチを繰り出していく。一人のパンチはかわして蹴りを入れるが、もう一人に脇腹を殴られ身体がぐらつく。
「くっそぉ!」
背後に回った一人が背中にキックをする。
「あうっ!」
バランスを崩し前のめりに倒れるゆい。すかさず二人が両腕をつかみ立たせもうふたりが両足を掴み一人が背後から羽交締めにして完全に動けないように拘束する。
「へ、へ、へ、どうした、うごけないだろ」
「やめろっ! 放せ!!」
必死にもがくが、複数の男子に動きを完全に封じ込められてしまっている。
「卑怯者っ!!!」
ポキポキと指をならしながら近づく渉。
「何かのドラマでいってたな、顔はやめな、ボディにしな、とな」
言うやいなや右ストレートを腹部に撃ち込む。
「ぐっ!」
腹筋に力を入れ耐える由衣。
「へ、そんなパンチ効くかよ! こんなことしてただで済むと思うなよ。渉だけじゃないから、あんたら全員同罪だからっ!」
「うるせー、いつまでそんな口がきけるか見ものだぜ」
更に左右の拳を交互にかわるがわる腹部に撃ち込む。
「おら、おら、おら!」
「く・・・くぅ・・・」
腹筋に思いっきり力を込めて堪えるゆい。
「流石に鍛えているみたいだな。こいつはどうだ!」
由衣に近づくと、膝をみぞおちに撃ち込む。
「ここれでも効かないかな」
パンチと膝を織り交ぜて腹部を攻撃する渉。
「く・・・くっ・・や、やめろ、卑怯者! 仲間に抑えさせておいてじゃないと殴れないのかよぉ!」
苦悶の表情を浮かべて必死に耐える由衣。
「何とでもいえ、こいつできまりだぜ」
大きく振りかぶった拳がズんと鳩尾にめり込む。
「うがっ!」
強烈な一撃にガクッとうなだれる由衣。意識が遠のきうなだれる。