『夕子〜島の祭りの夜に啼き濡れて…〜』-2
「提灯祭り、見て帰れないのかぁ…残念だね」
宴の片付けを手伝いながら、夕子が睦美に話し掛ける。
「休みとれなくて。今回はご挨拶だけ…」
戸惑いながらも手伝う睦美が答える。介護の仕事をしていて、睦美に長期の休暇がとれなかった。明日の便で睦美は一旦戻り、朝一だけ残る予定で帰郷した。
「俺は“提灯”の次の日に帰るよ」
酔い、寝入る父。片づけをこなす、母、夕子、睦美。島の夜の静寂。台所の食器の音。朝一は煙草を吐きながら、広い夜空を見上げる。浜の波が近くに感じた。
「ありがとね、夕ちゃん…」
母の声に夕子が手を振りながら玄関を出ていく。
「またゆっくり来て」
夕子の言葉に睦美が頷く。走り去る軽自動車のテールランプ。朝一の目に、遠い記憶が輪郭を持ち始めていた…。
狭い階段。2階。土壁の埃。朝一が使っていた、部屋。壁に残るレーシングカーのポスター。並べて敷かれた布団が、ふたつ。
「疲れたろ?」
風呂上がり。濡れた髪。睦美の肩に手をかけ、朝一が抱き寄せる。
「朝一番に生まれたから朝一かぁ…ホントだったんだね」
睦美が悪戯っぽく笑う。いつもと違う髪の香りと石鹸の匂い。白いTシャツ越しに見える白のブラジャーが、朝一の目にいじらしく映る。二人、伸ばした足。爪先で互いの爪先を、当てる。
「提灯祭り、見たいなぁ」
睦美の呟き。ふいを突いて、口づける朝一。驚きに一瞬漏れる息。やがて、キスを受け入れる睦美。柔らかな朝一のキスに、熱が宿り始める。それを察して、睦美が身を離す。再び、朝一が唇を求める。より、強く…
「んんん…」
くぐもった声で睦美が唇を交わす。なだめる様に頬に頬を重ねる。その頬に朝一の唇がキスを落とす。滑るように、ずれるように、睦美の唇を求めて、頬に唇を這わせてくる。
「もう…寝よ?」
拒否でなく、違う選択肢を差し出す。求めていながら、拒まれた時の男の哀しさを睦美は知っている。唇に辿り着けないと諦めて、朝一の唇が首筋を狙いに定めてくる。開いた唇から伸ばされた舌が、睦美の汗ばんだ肌を荒々しく舐め滑る。微かに震える掌が、乳房を掴む。押し付ける様に、乳房へ力を加えてくる。指先に込められた熱が、睦美の全身に波を起こす。引き返すなら…今。睦美の意識が反応する。
「ダメだって…」
それを待っていた様に朝一が唇を塞ぐ。舌先が、入って、くる…。
がむしゃらに抱きついてくる朝一を受け止めながら、紅潮してきたその耳もとに、必死に囁く。
「下で…お父さんとお母さん…寝てる…んだか…ら」
分かっていた。そんなことは、朝一にも。ただ、抑えようのない衝動が睦美を欲しがる。Tシャツの中に手を滑り込ませる。ブラジャーを力任せに押し上げ、まだ“反応”を拒んだままの乳首を指に挟む。朝一の指の温もりに、乳首は堪えきれず“反応”を始める。指間の羞恥心が硬くなる。
「ねぇ…ダメだ…って」
浴びせられるキスの隙を突いては、朝一の動きと衝動を抑えようと試みる。
「酔ってるの?ねぇ」
朝一の動きが、ピタリと止まる。首を上げ、真直ぐに睦美を見る。揺れる瞳が、そこにある。
「今、欲しいんだ…幸せだから…」