1)島へ-5
舗装されていない、土の道を、二人乗りのスクーターはゆっくりと進んで行く。
先ほど通った扉のところ以外は、フェンスは自然の森の中に隠れている。だから、今いるエリアからは、先ほどまでいた港や観光のエリアは気配すら分からない。道に沿って時々木造家屋があり、何となく昭和30年代頃にタイムスリップしたみたいだ。
たまに、歩いている人を見つけると、皆、組合長に挨拶をしてくる。やはり、このエリアは、ほぼ全員が海女の一家なのだから、組合長の顔を知らない人は居ないのであろう。後ろに乗っている雄一に関心を持つ人は誰も居なかった。
やがて、道は前より細くなり、しばらく人家が見当たらない時間が続いた。何も無いからだろうか、波の音が近くに聞こえる気がする。
「 ごめんねえ、遠くって… 一番はずれなのよ、行き先の家。 さっき言ったけど、色々と訳ありの家だから、旦那が外で女作って、残されたのが他所モンの女とバカ旦那の娘じゃあ、やっぱり近所に住みたくないって言う海女が多かったのよ。やっぱり仕事柄、縁起担ぐでしょう、皆。命掛ってるからね。 だから、この家は隅っこに追いやられた訳。漁場もあんまり取れない場所でねえ、でも仕方ないよねえ。 まあ、漁は見習いの、もっと手前のダブル見習いの子どもだけで、母親、ゆうこさんはインターネットで商売しているから、収入とは関係ないから問題は無いみたいよ。 海女エリアの中心から遠くて不便な事以外は… 」
ここまで話した時、道の先に小さく、人が歩いているのが見えてきた。
組合長が、
「 さなちゃ〜ん、 さなちゃ〜ん 」
と大きな声で呼ぶと、人影が立ち止まった。こっちを向いてお辞儀をしている。
あれが、行き先の娘さんの さな らしい。でも、視力が1.0以上はある雄一にも、遠くて人の識別が付かない。
「 よく誰か分かりますね、結構遠いのに。 組合長さん、目がいいんですね 」
「 いや〜、 ここから先は2軒しかないからねえ。 それにランドセルは判るでしょう。 だから、さなちゃんしかいないと思って。 当たりだったでしょ 」
スクーターが、さなちゃんらしい人影に近づいていく。
…あ、ほんとだ、雰囲気が小学年の、高学年の女の子っぽい。 あれ、制服… なのか、あれ… 紺のスカートに白いワイシャツ… みたいな…
もっと近づくと、女の子がもう一度、お辞儀をした。
「 組合長さん、こんにちは! いつもお世話になってます! 」
元気な声で、笑顔で挨拶をする。少し丸顔で愛嬌がある。いや、かなりかわいい。
雄一は、小学生相手にどんな写真を撮ったらいいか、と、今まで頭の中で体裁を整える事ばかりを考えていた自分に初めて気が付いた。
…この顔なら、海女の仕事ぶりは期待できなくても、それなりの映像は撮れるかもしれない。
雄一は、素直にそう思った。