1)島へ-4
年齢を聞いて、確かに ほっ とした。
雄一の、今のセフレの中に30代半ばが2人いる。1人は独身、もう1人はバツイチ独身で、2人とも経済的にかなり余裕があるから行く度に『お小遣い』をくれるので、映像の稼ぎが少ない雄一にとっては正直助かっていた。本業よりも『お小遣い』と言うセックスでもらう金額の方が遥かに多いので、実際には、「仕事はセックスです」という内容だ。
今まで40代とはセックスをした事はないし、今の30代の2人よりも10歳以上も上なのだから、きっと雄一にとって女を感じる事は無いはずだ。全然問題ない。それに、本当に『ものすごく若い』娘の方もまだランドセルを背負っている年齢なのだから、これも全然問題ない。
手土産も足りそうだし、宿泊費も安くて済みそうなのも有難い。
でも…
「 あの、さっき『ちょっと訳あり』て言われたのは、どういう事なんですか? 」
「 それねえ、あまり他人の家の事情、しゃべったらいけないんだろうけど… でも、言いかけちゃったし… まあいいか、内緒よ。 そこの旦那さんは元々島の人で、やっぱり島の、幼馴染の海女と結婚して、娘が生まれたんだけど、気の毒に5年前に母親が死んじゃってねえ。 それで3年前に再婚したのが今の母親なのよ。 でもねえ、その旦那がねえ、本土に出稼ぎに行ったまま若い女が出来たからって離婚届を送りつけてきて。まあ、旦那にしてみたら、再婚も娘の事があるから焦ってした感じだったし、10近くも年上の奥さんだったから、本土で若い子に ころっ といってしまったみたいなのよ、噂だけど… それで奥さんも意地っ張りなところあるから、そのまま離婚届にハンコ押して役場に出しちゃって… だから、結局、今のその家は、47歳の継母と11歳の娘の2人暮らしって訳なのよ。 あ、でも心配しないで、普通の母子って感じで、娘の撮影も宿泊も普通にOKだから 」
と、また組合長は、更に一気に話していく。
「 あ、でも、そんな家だから雄一くんを押し付けた訳じゃないからね。 本当に、雄一くんの言った条件に合う家が、そこしか思い浮かばなかっただけだから… 」
でも、雄一の方は、とにかく ほっ としていた。
島に着くまでも、着いてからも、ずっとこれからどうなるのか気になり続けていたけれど、これでようやく撮影の目途が立ったからだ。
それから、もう少し島の話や雑談をしてから、組合長が先方まで送ってくれる事になった。そろそろお昼前である。
また、原付の狭いシートに二人乗りである。雄一もかなり組合長とは打ち解けた感じになれたので、今度はあまり遠慮せずにしっかりと腰に手を回す。ただの脂肪だけではない、すごい弾力だ。普段セックスの相手にして(あげて)いる30代半ばのセフレと近い年齢のはずだが、セフレの身体が硬くて薄っぺらく感じてしまう。
真上に近くなった太陽の下を、スクーターは歩くよりも少し早いくらいの速度でゆっくりと進む。
「 あ、そうだ、言い忘れてたよ、雄一くん。 さっきの電話でゆうこさん… お母さんの名前、ゆうこって言うんだけど、彼女、若い男の子が映像の勉強に来てるって言ったら、応援したいって、結構好意的だったから。 でも、雄一くんの歳聞かれて、10代の学生さんじゃないかなって、少しぼかして言ったら、10代の子なら安くしてあげないとね、って言ってた。 だから、歳は若めに言った方がいいよ、18歳の専門学校生みたいな… 苦学生の設定が良いと思うよ。安い方がいいでしょ 」
雄一としても、それで安くなるならその方が良いと思う。23を18と言っても、誰にも迷惑は掛からない。それに、雄一はお酒が苦手だから、勧められた時に断る口実にもなる、と、気が付いた。
やがて、金網のフェンスが続いている場所に出た。普段、どこででも見かける菱形金網だ。胸ぐらいの低いフェンスだが、これが、海女エリアと観光エリアの境目らしい。
誰でも乗り越えられそうだが、海女エリアの住民は、この決まりをしっかりと守っているそうだ。また、以前は観光客が興味本位で乗り越える事もあったが、条例で高い罰金が掛けられている事と、海女と言う観光資源を守るために県も力を入れているから監視カメラと非常ベルが設置されているので、今では興味と罰金のバランスを考えて、もう10年以上、誰も乗り越えていない。たまに野生動物に反応して非常ベルが鳴る事があるが、それは年に数回の事であり住民も納得していて問題にはなっていない。
組合長が、錠前も付いていない扉を開けて、いよいよ海女エリアに入った。
簡単に越えられるけれど、実際に越えてはいけないエリアに許可を貰って入れた事に、雄一は少し優越感を感じていた。こういう所は、見た目通りの ガキ なのかもしれない。自分でもそう思う。
「 あ、そうそう、色々と言い忘れてるわ。 娘の方の名前は、さなちゃん、だから。 お母さんが『ゆうこ』で、娘が『さな』ね。 覚えといてね。 本当の母子じゃないけどね 」
かなり言いにくい事も、この組合長は平気で、あっけらかんとして言う。だから、聞きやすいのも確かだけど、雄一はあらためて、これからお世話になる家の複雑さを感じていた。