恋人達の悩み7 〜Summer Vacation〜-1
「美弥ちゃん、夏休みの予定ある?」
夏休みの近いある日、輝里がそんな事を言い出した。
「ん?」
ひんやりぷるぷるのわらび餅にうっとりしていた美弥は、その言葉に輝里を見る。
――ここは、いつぞやも来た事のある甘味処。
美弥は前述の通りにわらび餅、輝里はフルーツ餡蜜を注文してくつろいでいた。
「ないけど……どしたの?」
「うん……あのね」
輝里はスプーンで寒天を掬い、口に含む。
美弥は黙って、その先を待った。
「私の叔父さんがね、ペンション経営してるんだけど……夏休み分の予約が一件、キャンセルになったんだって」
そこで叔父さんはキャンセル待ちをしているお客さんよりも、猫可愛がりしている姪っ子に提供しようと申し出ているのだという。
「コテージタイプで三部屋あるから、秋葉と二人よりは……」
それを聞いた美弥は、肩をすくめた。
ようやく、輝里がこんな誘いをかけてきた理由が分かったからである。
人選の問題だ。
まず輝里は、恋人を誘うか友達を誘うかで迷ったのだろう。
そして、友達ではなく秋葉と過ごす事を決心したのだ。
となると、他に誘える人間は自然と限定されてしまう。
恋人のいない友達を誘ってラブラブぶりを見せ付けるなどという根性悪な真似は、間違ってもできない輝里だ。
「必要なのは、交通費とか服とか……後は、水着とか」
「水着っ!?」
美弥の素っ頓狂な声に、輝里は頷く。
「海の近くのコテージなの。だから、海水浴ができるでしょ?」
そして、夏休み。
電車を乗り継ぎ、一行はとある街へと降り立った。
なるべく早く着いて長く遊びたいから朝早くに出発という事で、睡眠が不足気味の美弥はふらふらしている。
が、美弥以外の五人はピンピンしていた。
「ほら、もうすぐだから。頑張って」
電車から降りた龍之介は、美弥の分まで荷物を持ってやりながらそう言う。
「ん〜……」
左手にリュックを抱えた美弥は右手で龍之介の肘を掴み、ふらふらしながら頷いた。
「っとに、朝に弱いわねぇ」
呆れた口調で瀬里奈が言うと、紘平がまあまあと執り成す。
「美弥はまあ……昔っから睡眠好きだったからな。仕方ないさ」
自分の分の荷物を肩にかけつつ、紘平はそう言った。
「さあっすが、幼馴染みはフォローの仕方が違う事」
刺のある言葉に、紘平はにんまり笑う。
「何だ瀬里奈、妬いてるのか?」
「さぁね」
舌を突き出す瀬里奈の耳元に、紘平は何事かを囁いた。
「……!」
一体何を囁かれたのか、瀬里奈の頬が真っ赤に染まる。
こうして見るとこの二人、なかなかいいコンビだ。
「……」
そんな二組のカップルを見ながら、輝里はため息をつく。
龍之介と紘平に比べると、秋葉はどうにもあっさり気味というか……正直な話、かなり淡泊だ。
あの時自分が告白しなければ、たぶん今でもキャプテンとマネージャーの関係から脱却できていないか、勝手に諦めてしまっていただろう。
「どうかしたか?」
頭上から降ってきた声に、輝里は首を上へと巡らせた。
心配顔な秋葉を認め、輝里はふるふると首を振る。
「何でもない……」
明らかに何か含んだ口調で呟いた輝里は、視線を周囲に巡らせた。