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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み7 〜Summer Vacation〜-16

 龍之介が隣の椅子を示すと、美弥はそこに腰を下ろした。
 まずは、髪を洗い始める。
 その間に龍之介はスポンジを手にとり、そこにボディソープを落として泡立て、美弥がシャンプーし終えるのを待った。
 髪を洗い終えた美弥は、体を龍之介の方へ向ける。
 龍之介は、美弥の体を丁寧に流してやった。
 美弥もまた、龍之介の体を丁寧に流す。
 洗いっこをしてお互いの体を流すと、二人はぶくぶく泡立ついい匂いのする浴槽へ、ゆったりと身を浸した。
「星、綺麗だね」
 龍之介の肩に頭をもたせ掛け、呟くように美弥は言う。
「さっきは見る余裕、なかったけど……改めて見ると、ほんとに綺麗」
 恋人に体を預けて切なく鳴いていた美弥にとって、夜空の綺麗さなど二の次三の次だった。
 お風呂に入って天井を眺めた時、ようやくそれに気付いたのである。
「空気が綺麗、なんだろな」
 龍之介は、美弥の肩を抱き寄せた。
 折れそうなくらいに細い、が実感できる。
 二人は言葉もなく、夜空を見上げていた。
 
 
 翌朝。
 珍しく龍之介より先に目を覚ました美弥は、ベッドの上にむっくり起き上がった。
 
 ガラ……
 
 起き上がった美弥は窓まで行くと、龍之介を起こさないようゆっくり開ける。
「……!」
 意外に冷たい風が、部屋の中に吹き込んだ。
「ん……」
 吹き込む風のせいか、龍之介が目を覚ます。
「おはよう」
 美弥が声をかけると、龍之介は目をしばたたいた。
「……おはよう」
 挨拶を返してから、やはりベッドの上に起き上がる。
「ちょっと寒い?」
 美弥はぱたんと窓を閉めた……いや、閉めようとした。
 起き上がった龍之介が近付いてきたため、窓を閉めるタイミングを逃がしてしまったのである。
 龍之介は、美弥の肩に手をかけた。
「り、龍之介?」
 少し驚く美弥の体を、龍之介は反転させる。
「ん……」
 軽く優しいキスに、美弥は声を漏らした。
 付き合い始めの頃は時折やってくるおはようのチューに物凄い抵抗を覚えていた美弥だが、今ではすっかり慣れてしまって龍之介の為すがままである。
 嫌だった理由は、寝起きで髪はとかしていないし目やにが付いているだろうしよだれの跡があるかも知れないし……と、要はみっともない顔を見せたくないから嫌だったのだが、龍之介が全く気にしていないのでそのうち諦めてしまった。
 龍之介からすれば寝起きの寝ぼけ顔なのはお互い様、という所である。
「ん……」
 唇が離れると、美弥は龍之介を見上げた。
「朝からその目付きは反則デスヨ。」
 龍之介は悪戯っぽく言い、もう一度恋人の唇をついばむ。
 隣室で物音がしたため、二人は唇を離した。
「さ、顔を洗って朝飯の準備をしましょうか」
 
 
「やー、満喫満喫」
 帰りの電車の中、紘平がおどけた風にそう言った。
「芝浦さんのおかげで、激安で海が楽しめたな。サンキュ」
 紘平がそう言うと、輝里は眉を寄せた上に頬を真っ赤に染める。
「い、いえ……」
 もはや初心というよりも人見知りの域に達したリアクションに、紘平は目をしばたたいた。
 輝里からすると紘平は今まで接した事のないタイプなので、どうしても挙動が不審になってしまうのだが。
 友達である瀬里奈の彼氏だから、少なくとも喋れはするが……普段だったら絶対に、茶髪のお兄ちゃんには近付かない輝里である。


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