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触覚
【SM 官能小説】

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触覚-13


―――――

エピローグ………


あれから三十数年がたつ。美繭お婆さまは、わたしが二十五歳のときに亡くなり、雪乃叔母様は長い闘病生活を終え、昨年息を引きとった。わたしにとっては二人とも大切な人だった。
そしてあの頃、出会った三人の心優しい男たちが、とても懐かしい虫となって甦ってくる。彼らはわたしの遠い記憶の中で《完璧に虫らしき存在》であり、わたしは彼らをとても残酷に愛していたのかもしれない。

昼間は残暑が厳しかったが、日が暮れるとこの家には心地よい潮風が微かに吹いてくる。
夏の終わり、わたしは毎年、この時期に休暇を取り、美繭お婆さまが住んでいたこの家で数日間を過ごすことが多い。
開け放たれた窓から紫色の黄昏に浮かんだ鎌のような月が見え、濃厚な夏草の香りを含んだ虫の鳴き声が聞こえてくる。
いつのまにか心地よい風の中で眠っていた。美繭お婆さまがいつも使っていたデッキのチェアで浅い眠りから覚めたわたしは、まだ夢の中をさまよっている気がしている。

わたしが十七歳のときに書いた小説にあらわれた男たちの気配だけが、まるで澄んだ薄紅色の黎明のような幻影となって体の奥まで滲み入ってくる。
わたしは身に纏ったすべてのものを脱ぎ落し、生まれたままの姿だった。夏の夜風が静寂を運び、肌を湿らせる。濡れかかった蕾の奥がとても虫を欲しがっていた。もし今、虫を捕え、虫を蕾に奥深く吸い込むことができたら、わたしはきっと虫の純潔で癒されるだろう。でもそれは、ほんとうは虫ではなく、虫らしき男たちの触覚であり、意識そのものかもしれないと思った。
不確かな虫の幻影は、花の蜜に誘われるように触覚を蠢かせ、眼を虹色に煌めかせ、嗅覚をとがらせ、微かに吹いてきた風に乗り、淡い月灯りに照らされたわたしの肌に舞い降りる。わたしの寂し気な体は、《彼らの触覚》でなぞられ、色硝子のような眼で見つめられ、体の肉奥を癒されるように深く嗅がれる。
触覚でなぞられる唇は、どんな男たちの接吻より優しく癒され、自然と開き、胸肌を漣(さざなみ)のように揺らがせる視線は、まるで赤子のように乳首を甘く噛み、熱い吐息とともに嗅がれた陰毛の翳りは漂うようになびく。とても麗しく、凛々しい虫の嗅覚は、わたしの蕾を今でも無防備に疼かせる。
虫が戯れる蕾をそっと開く。やがて虫たちは開き始めたわたしの蕾に集まり、蜜と戯れ、わたしをこのうえない甘美な至福の高みに至らせようとする。それらのすべてが虫たちの愛し方であり、わたしの愛され方だということを感じると、とても安心する。

ふと、思った。十七歳のとき見た夢の中で、靴で踏みつけた虫のことを。わたしは自分の体の奥深くに潜んでいる安らぎを得るために踏みつけた虫らしき男を求めているような気がする。そしてわたしは深く溺れるような自慰に耽(ふけ)ることができる。

気がつくと、いつのまにか虫の音が途絶えていた。
ここに描いた男たちの触覚を、おそらくわたし以外に想い描けるものは誰もいない。いや、もしかしたら彼らがほんとうの虫であっても、誰も気がつくことはないだろう……。


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