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四月。生まれ育った岐阜県を離れ、ここ名古屋の高校で本日めでたく入学式を迎えた。
桜道工業高校。美桜という名前の私と同じ、『桜』の文字が含まれる高校。だからと言って、何か感慨深いものがあるわけでもなく、それを理由にこの高校を選んだわけではない。
それどころか、選ぶ権利すらなかった。
「あいつがそうなの?」
「え、まじ?普通の子じゃんか。」
「まじだって。俺、こっそり見たことあるからさ、国カメ。」
聞こえてくるヒソヒソ話。慣れていない教室だから静かな教室、というわけではない。もちろんそれもあるだろうが、原因の大半を占めるのは私という存在だと思う。
担任の先生が教室に入ってきても、それは変わらない。
そして、回ってきた私の自己紹介でヒソヒソはザワザワへと変わる。
「い、140723号です。出身は岐阜県、飛騨の方の中学から来ました。三年間よろしくお願いします。」
140723号、今の私が名乗ることが許されているのはこれ。本名の川瀬美桜は名乗ることが許されていない。
向けられる遠慮のない視線がいたたまれず、私はすぐに先に座る。
進んでいく自己紹介。その殆どが男子で、女子は私の他にたった二人。情報処理科のクラスということもあり女子が辛うじているが、女子のいないクラスだって珍しくない。
進路で名古屋の学校に行くと希望したら、ここに入れられたのだ。私の意思などそこにはなかった。しかし、中学のクラスメートと同じ高校になど行きたくなかった私にとって、名古屋ならどこでも問題なかった。
そう、放課後を迎えた今、この時まではそう思っていたのだ。
「おい、犯罪者予備軍。」
そう言って、私の机を囲んできたのは三人の男子だった。三人とも茶髪で、いかにも不良。わかりやすい風体をしている。
「返事ぐらいしろよ。」
椅子を蹴られる。しかし、犯罪者でもその予備軍でもない私は返事なんてしてやらない。
「それとも穴人形て呼ばれた方がいいのかよ。」
「違う、私は……。」
川瀬美桜。そう言いたいのに名乗れない。だって私には人権がないのだから。
「まぁいいわ。それより、お前さ。」
どんなことを聞かれるのだろう。家族の誰が犯罪者になったのか?それともどんな犯罪を犯したのか?よく聞かれるのはこれらの質問だ。
鬱陶しいぐらいに聞かれたし、何より、話すたびにそれを思い知らされることがホントに辛い。
しかし、今日はそんなのが気にならないぐらい、むしろそんな質問の方が良い、そんな内容だった。
「脱げよ。」
「………………え?」
何を言われた?
「着ている服、脱げよ。」