(番外編)ゲリラ魔女姫のファミリー事情-1
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｢またそんな格好で｣
本を読んでいたレイジーは、異母姉チェルシーが透けるようなネグリジェ姿で近くでくつろぎだしたので、視線を誘導されてどうにもならない。
｢ふふ、集中力のないやつ。目が泳いでいる｣
かがんでこられると、布地に乳房が透けるだけではなくて、襟からヘソ近くまで丸見え。
チェルシーからすればわざとやっている悪戯と教育のようなもので、この親しい異母弟が｢余所の女で考えなしの種蒔き｣しないように精神的に餌付けするようなものか。値が生真面目な弟の性格も、幼少期から熟知して計算ずくである。
目元涼しいチェルシーは、案外に冷静に物事を考えてやっていたりする。懐いている弟レイジーが余所の女に執心したら、その女が自分に敵意・反逆するように唆すかもしれないからだ。
｢どこ見てるのかなー？｣
ニンマリ笑ったチェルシーは、そのままレイジーの頬にキスしてやる。｢微妙な関係｣だった。
同じ大手ゲリラのボスの子供なのだが、母親が違う。
チェルシーの母親(中国系)は拉致されて早く、士官たちの慰みにされた。偶然にも早いうちにボスの娘の彼女を妊娠したため(検査でわかった)、出産と育児を許可された。ただしボスからすれば｢女の一人｣でしかなく、避妊手術をされた上で、ゲリラ大規模基地の酒楼を与えられて士官向け高級娼婦をやっていた。
およそレイジーの母親(日系)も似たような境遇だったのだが、生来の繊細な性格や気質からストレスで早世してしまった事情がある。ただ、母親同士で付き合いがあったこともあり、チェルシーやその母親とも子供のうちから知り合って交際している。
レイジーに性の手ほどきしたのは、実は既に亡くなったチェルシーの母だったりする。｢高級娼婦｣とは言っても、立場からすればボスの元愛人の一人と見做されて暗黙に地位も高く、実際は酒楼の経営者に近い。ゲリラ士官などの有望な若い男客は、かえって手下の若い高級娼婦たちに譲るような思慮もあったのだろうか。
チェルシーの母からすれば、自分が当たり障りなく無聊を慰めながら、愛娘の将来の腹心の仲間として、友人の息子で娘には異母弟のレイジーを｢保護・キープしておく｣ような心づもりもあったのだろうか。
汚らわしく感じたり、嫉妬したり、有り難迷惑のような複雑なアンビバレントな感情がなかったわけでもないが、万事が生前の母の目論見通りになった。チェルシーからしてのもレイジーのことは好きだが、それが肉親の弟としてなのか、男としてなのか微妙。
｢どう？ やっぱりママのこと思い出す？｣
ソファの隣に座って、レイジーに横から柔らかにしなだれかかる。チェルシーからすれば本気で気を許して甘えられる男でもあった。
｢うう｣
｢押し倒す？｣
｢ううう｣
彼なりに苦悩や葛藤があるのだろうか。何しろチェルシーは腹違いとはいえ｢実の姉｣なのだから。しかも母の身体を知っているだけに、チェルシーに誘惑を覚えるのもやむないことか。
｢顔が赤くなってる｣
チェルシーはクスクス笑いながら人差し指で弟の鼻を突っつく。
ともあれこの弟レイジーが｢チンコ魚拓｣の第一号。
父親の親衛隊の部隊長(｢水滸伝｣的剛勇の山賊番長)であるリュウ(劉)・チョウ(趙)も母と同じ民族であるために親しく、チェルシー個人として最も信頼できる男たちだった(母は二人とも何度か関係を持った説がある)。彼らがチンコ魚拓コレクションの二号三号になったのも当然で、まさしく秘密結社｢チンバン｣であった。
彼らの娘二人・従妹はチェルシーの取り巻き・腹心になっている。その｢義妹ども｣はいつぞやに、ライバルゲリラの頭目を酒宴・接待しながら殺して始末したときにも協力した｢股肱の臣｣だった。
ゲリラ支配の無法地帯エリアは広大で、まさしく乱世の戦国時代。過酷な世界の真実として、州軍閥など、実際にはさほど脅威ではなく、むしろ侵略・略奪のボーナス対象どころか通商や裏取引の相手だったりもする。