(番外編)羅刹少女の憂鬱-1
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義理の姉(になる・する予定に考えていた)パトリシアがいなくなった。状況からして一家皆殺しにされて、ゲリラに拉致されたらしい。
セラ十三歳未満。
ついにキレてしまったようだ。
押っ取り刀で出刃包丁、晒し台の捕虜になったゲリラ兵士たちの前に駆けつける。
まだ十三歳にもならない少女が冷酷な眼差しで、物騒な刃物を持って登場したものだから、ゲリラ兵士たちも目を丸くする。｢きっと何かの冗談だ｣とでも思ったらしく、目顔を見交わして曖昧な笑み。
だが、本人たちには笑い話で済まなかった。
セラの父親はゲリラで、母親が拉致されて孕まされたのだから。異父兄と母親は優しかったけれど、複雑な心情と鬱屈した怒りをセラ自身が抱き、ついに爆発のときがやって来た。
大魔神ならぬ｢羅刹少女｣の伝説の始まり。
｢パパたちと遊んで貰いにきました｣
にっこり微笑んだセラの目は、笑っていない。残忍にギラギラと輝いている。それでついに、縛られたゲリラ男たちも｢本格的な命の危険｣を悟る。
いきなり、斬りつけ、突き刺す。
非力ですぐ致命傷にはならずとも、刃物である。
ハァハァと野獣の息遣いで斬りつけるセラ。
｢パパ！ すごいよ！ こんなの切って死なない！｣
凶行する幼い少女の口から、｢キャハ！｣と狂気の笑みがこぼれる。
たしかモンテスキューだったろうか？ 人間同士では最も弱い者でも、やり方次第で強者に逆襲できる。だから無限の闘争を避けるためには、信頼による社会契約によるしかない。しかし、今の世界では｢社会契約｣が通用するのは味方の村や都市同士でしかなく、乱世無法の中世と変わらない。
やがて少女は｢男の弱点｣に思い至る。
兄がいるから、経験的に知っているのだ。
｢ぱーぱ、いーことしてあげるね｣
小さな手で、ズボンのジッパーを開けて、陰茎を引っ張り出す。ちょっとつまむような、｢汚らしい｣という粗末な触り方だった。
男は｢うっ｣と呻いたが、すぐに我に返る。
｢な、何をするんだ？ どうするつもりなんだ？｣
恐怖に慄くゲリラ男に、セラはこの上もない残酷な天使のような微笑みを浮かべるのだった。
｢こうするのっ！ えいっ！ えいっ！｣
そのとき起きた出来事は、あんまり酷たらしく無残過ぎて。世界がモノクロームになったようだった。
つまり｢羅刹｣とは、そういう意味もあるらしい。｢羅刹少女｣という言い方は、州軍閥大尉の日本鬼士などが冗談で言ったのが定着したそうだ。
一人前のレディ(羅刹女)への階段の第一歩。
2
それからのセラは、フェンシングやナイフ格闘術に凝るようになり、医学や拷問・処刑の本を読み漁ったそうだった。
｢やるかやられるかよ！｣
元から｢ゲリラの父親が攫いにくる｣という脅迫観念もあったらしい。
母親と兄は戸惑いながら見守ったが、たぶんどこかで落ち着くだろうし、将来の準備になると思っていたのだけれど、一番危ない方向で突っ走る。
｢セラはさ、看護師やお医者さんになったら？｣
｢うん。それも考えてる。だけど、軍籍欲しい｣
兄が農学校に通うため、一家はしばらく要塞都市に住まうことになる。それでセラも高等教育で、準看護師の勉強をしながら、コンピュータ・オペレーティングの基本などを兄と学ぶことになる。
そして日本の鬼の面を部屋に飾り、中国や韓国の残虐刑の研究にも余念がない。パーク大尉の公開拷問処刑も見に行ったし、日本鬼士から居合いの手ほどきも受けたことがあった。
3
およそ一年近くが過ぎて、アキダホ・アマゾネス第三駐屯地村の誕生を知った。
再会したパトリシアはやつれて、心がボロボロになっていたが、何故か巨大ロボットウォーカーに乗っていた。州軍閥から伍長クラス・初級戦闘パイロットとして仮登録されたとか。
そこでセラはサブパイロットになることにした。｢添い寝｣しだしたのもその頃からだ(ちょうど軍籍登録の講習で要塞都市に滞在したので)。大好きなパトリシアがどこの馬の骨とも知れぬゲリラの男たちから好きにされたのが許せなかった(癒す目的とマーキングしなおさないと気が済まないようだ)。
これは話が始まる前の話だ。