恥辱と絶望の朝-2
3
まだお互いに裸のままだった。
すぐ表のコンクリートとブロック壁の一角に行き、バケツの水でスポンジを濡らして、シャボン液を塗る。それでお互いにこすりあう。
あちこちで艶めかしい吐息と、どこか官能的な声が聞こえているのは、この時間のこの区画にはありがちなことだった。女囚長屋の各部屋の前の備え付けで、しばしば相部屋の娘同士が「洗いっこ」しているからだ。
石鹸とシャワー・洗い場などの衛生施設と観念があるのは、このゲリラ村のせめてもの長所だろうか。
隣のミユキ・サトーとマリア・リーも、ふざけあいながら洗いあっている。二人とも東アジア系の混血らしく、よく不可解な象形文字で遊んでいるそうだ。
「はい。私の番」
身体を泡だらけにしたパトラが手を差し出す。
手渡したスポンジをバケツでゆすぎ、シャボン液を付けて触れてくる。心地良い手触りだった。それは労りの優しさがある触れ方で、自己中心的になぶるような愛撫とは別物。それで少しは心が癒される。
見交わした視線に熱がこもる。
恋情や欲情。
心の空白を埋め合う。
昨晩の男たちの感触の不愉快な名残が、泡と浮き出してくるようだった。
4
火照った身体に泡だけをまとい、バスタオルを入れた手かごだけをもって、洗い流しに数十メートルを連れ立って歩いていく。
裸の二人が入ったシャワーボックスは、五分間のお湯の滝を浴びせかけてくれるから、それで石鹸と汚れを洗い流し、髪の毛も流せる。
けれど、もう一つの目的がある。
狭いスペースで抱き合うように密着しながら、パトリシアの手はミレーユの姫貝に伸びていた。自分の濡れだした牝花を滑らかな腰と腿に押しつけながら。
ミレーユはちょっと、パトリシアの可愛らしいお椀型の胸乳に指先で軽くなぞり触れて、「あの男どもが好きにしたのが許せない」と思う。
「昨日、大丈夫だった?」
上気して弾んだ声で、ぬかるみを押しつけながら、パトリシアが囁く。上方からはお湯が浴びせられて、二つの立ったままもつれる女体を洗っている。
「うん」
「ミレーユ。気持ちいい?」
少し気恥ずかしそうに訊ねる年下娘に、ミレーユは微笑んでキスをする。そして自分から秘裂を悪戯する小さな手のひらに押しつけて、囁き答えた。
「うん。あいつらの十倍くらい」
これは、心の埋め合わせで、自分たち自身のためだけの快楽だった。同じ悦楽や絶頂でも、一方的に玩具にされるのとは意味合いが全然違う。こういう背徳的な秘密の楽しみでもなければやっていられない。
お湯だけのせいでなく頬を赤らめたパトリシアは、恥じらうようなエッチな顔で可愛らしい。もしもこの娘と愛し合う男がいるなら、きっと一生手放せないだろう。
手でお湯の流れる背中を撫でながら、小ぶりで引き締まったヒップの隙間をくすぐると、パトリシアは「うひっ」と喘ぐ。達したくても達せないもどかしさか。
「あっ!」
ミレーユはそっと手を這わせ、パトリシアのヴェヌスの丘を手のひらで包み込み、抱きしめながらあやすようにマッサージする。耳元でハァハァと昂ぶる息遣いが、官能のさざ波のリズムにたゆたっている。
「あうう、うぅ、んっ」
「いいわよ。イッちゃって」
「う、いくっ! いくっっ!」
悩ましげな声音で切なく告白するのがいじらしい。
激しいオーガズムでなく、慎ましい。気持ちの充足はそれとは別問題だ。打ち震える生命が歓喜の蜜液を絞り出しながらピクピクと鼓動を伝えてくる。
パトリシアのとろんとした眼差し。
指を入れていじくってやると、泣きそうな顔になる。
「う、う、ううぅぅぅ」
膝を震わせて崩れそうな裸体を抱きしめ、二対の乳房が押しつけ合い、柔らかく潰れて溶ける。自分でも擦りつけて、官能を高める。ぷっくり充血したミレーユの姫小豆はパトリシアの腰骨に伝わっていることだろう。
痺れるような甘い悦楽が小さく弾ける。小さく笑いながらも、噛み潰したミントの芳香ような甘美な電流が頭を満たす。
でも、あとたったの一分くらいで、この小さな秘密の楽園の時間も終わり。そのあとはまた、絶望の日常の新しい一日が始める。
(ずっとこうしてられたらいいのに)
二人の娘は唇と舌を絡ませて、薄目に目線までを絡み合わせ、愛のある肉欲を貪る。パトリシアの鼻息は切なげに音をたてて、しがみつく腕と背中はお湯と汗に濡れて艶やかに滑り輝いていた。
優しい雨のようなシャワー音には、他の女たちの嬌声も混ざっていた。きっとまだ大人の恩典にあずかれない早熟な少年兵たちが、未熟な陰茎を握りながら聞き耳を立てていることだろう。