5日目-26
「やっぱり、ちょっと照れるね」
ももちゃんに話しかけたが、返事がない。見ると、緊張してるというより、何か考え込んでるようだ。
彼女が望んだ事なのに、うれしくないのか?
「ももちゃん?」
「あ、うん、大丈夫…」
「神父さんがいないから、僕が花婿兼神父だね。いい?」
「うん」
「じゃあ、始めるね。えっと…これより山下耕平と大橋桃香の結婚式を…」
「待って!」
いきなり、ももちゃんは僕の言葉をさえぎった。
「どうしたの?」
「お兄ちゃん、ごめんなさい 」
ごめんなさいって…冗談だったのか?
「わたしね、ウソついてたの」
「え?」
「だいじな結婚式だから…ウソついたままするのはヤダ」
「ももちゃん…」
「やっぱりお兄ちゃんには、ホントの事言いたい」
「話してくれるの?」
「うん…」
ふたりは並んでベッドに座った。
ももちゃんが今まで真実を全て語っていない事は、わかっていた。だから、それほど驚きはしなかった。
それより、ももちゃんの様子を見ているのが辛かった。彼女は口を真一文字に結んで、じっと、うつむいていた。
これから話すべき事を、躊躇しているのだろう。
「わたしね、悪い子なの。本当はずっと黙ってるつもりだったから。でもやっぱり無理。お兄ちゃんには、ちゃんと言わなくちゃ」
そう言ったきり、ももちゃんは、黙りこんでしまった。その目が潤んでいた。
僕はしばらく待ってから、口を開いた。
「ありがとう。でもね、無理しなくていいよ。辛かったら話さなくていい。何があっても、ももちゃんを好きなことに変わりはないから」
「お兄ちゃんは優しいから、そんなこと言えるんだよ。これを聞いたら絶対、わたしをキライになるから」
ももちゃんは、顔を上げて言った。
「わたし、大橋桃香じゃないの。本当の名前は…早川桃香」