(特別編)お猿になった女たち/残酷姉妹-1
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「きっ、きっ! うっきー!」
奇声を上げる裸同然の女たちが、荷物輸送用のプロメテウス二足歩行戦車の前に立ちはだかった。
まだ若いようだったが、丸出し乳房に泥や塗料を塗って、古い映画に出てくる未開地域の原住民のような出で立ち。腰蓑でフラダンス調に艶めかしくヒップを揺らしながら、十五メートルのロボット戦車の足下で行く手を阻む蛮勇であった。
(これ、あれですかねえ? ゲリラから人質交換で売られた罪人の奴隷女が逃げて野生化したとかなんとか?)
(うむ。たしか少年兵や子供もいるとか?)
二足歩行戦車のコックピットでは、二人のパイロットがヒソヒソ話している。モニターにはセクシーダンスする「人猿」の勇姿があった。
足元でウロチョロされて、そのまま通常歩行では踏み潰しそうで、進むに進めない。
そうこうするうちに、レーダーが反応する。
中型十メートルのキャンサー型。
ただ、表に安全帯を付けた「子猿」こと少年たちが五六人も掴まりぶら下がり、うち二人は若い女だった。M字開脚で正面に盾になって、黄色いバイブレーターで自涜しながら「バナナ狩り」のプラカードを掲げている。トコトンまで舐めてふざけている。
さながら「撃てるものなら撃ってみろ」と言わんばかりであったが、州軍閥側の兵士が割と優しいとたかをくくった行動であった。リアクションに困ったプロメテウス二足歩行戦車が迷っているうちに、何人かの勇敢な少年たちが、ターザンのように飛び移ってくる。
狙いは、プロメテウスが引っ張っていたコンテナ・トレーラーである。
それは物資が山のように積まれている。
「あっ! しまった!」
プロメテウスは慌てて、引っ張っていたコンテナを切り離す。ブースターを吹かして短距離ジャンプして、キャンサー型と「人猿山賊団」から距離をとる。ロボット戦車本体にとりつかれては面倒だからだ。
さすがに黙っておれず、スピーカーで怒鳴る。
「おい、貴様ら! どういうつもりだ? バカな真似をやめないと、撃つぞ! 手を上げろ!」
しかし人猿山賊団は臆しない。
ひたすら輸送用コンテナから、物資段ボールを手渡して公然窃盗を敢行中。さらには、一部のコンテナを大急ぎでキャンサー型の背中の背負子に移す。コンテナ・トレーラーごと全部強奪することも可能だったろうが、追撃や討伐されるリスクを考えて、あえてキャンサー型の荷台に積めるだけにしたらしい(それもまた、彼らなりの慎ましさや分別だろうか?)。
キャンサー型の屋根の上では、女の一人がポールダンスしており、大きな「通行料徴収中」の垂れ幕なんかをぶら下げている。
約十分間ほどの物資略奪のあと、山の人猿どもは、投げキッスや敬礼して去って行った。プロメテウスのパイロットとデッキ甲板の警備兵たちも、溜め息を吐いて「無茶や悪さするなよ!」とスピーカーで怒鳴りつけて見送った。成り行きで手を振った二人は「貴様ら、物資を盗まれて吞気な態度だな」と、二日の全員営巣入り(独房で謹慎・反省)に加えて追加でスクワットを命じられたそうである。