1日目-1
暑い…
僕は流れる汗を拭いながら、アパートの階段を昇っていた。
もう午後6時だというのに、夏の太陽はまだ容赦なく照りつけていた。
なんか、疲れたな…
それは今日、職場でトラブルがあり、その対応に追われたからだ。
僕は34歳、会社では係長だけど、わずかな役職手当てで責任を負わされて、大していい事なんてない。
今日は早く寝よう…
そう考えながら、部屋のドアを開けた時、声がした。
「お兄ちゃん!」
振り返ると、小さな女の子が走り寄ってきた。
知らない子だ。水玉模様の青いワンピースを着て、ピンクのショルダーバッグを下げていた。
女の子は立ち止まり、元気よく挨拶した。
「こんにちは!山下耕平さんですよね?」
「そうだけど…」
「わたし、大橋桃香です」
そう言うと、ペコリとおじぎした。
やっぱり知らない名前だ。
ただ、大橋という名字は、心当たりある。母方の親戚だ。
桃香ちゃんは、ニコニコして僕を見ていた。
小学生だろうか。可愛らしい子だ。
丸顔で色白、大きな目が印象的だ。
胸まで伸びた黒髪が綺麗だ。
女の子は、キラキラした瞳で、真っ直ぐ僕を見て言った。
「今日からお世話になります!よろしくね、お兄ちゃん!」
えっ!?
「ちょっと待って!それ、どういう…」
「ここ暑いね。中に入っていい?」
そう言うと桃香ちゃんは、返事も聞かずに部屋に入ってしまった。
僕の部屋はワンルームだ。
はっきり言って狭い。
しかも物が散乱し、雑然としていた。