初めての意識ーー秘め事の始まり-2
なるべくいやらしい言葉を吐きかけないように、悠斗は冷静さを保とうとした。
岳の父親は、岳と悠斗が大学卒業を控えた頃に亡くなっている。
岳が社会人になっても家を出ないのは、岳が一人っ子であり、母親を自宅に一人にさせないためだった。
「まだ好きだから、思い出してたの?」
「そりゃ…夫だったわけだし。やめましょう。こんな暗い話。気持ちの悪い声、聞かせちゃったね。ごめんなさい」
悠斗は思わず、佳織の体を引き寄せて、抱きしめた。
「悠斗くん…?」
「気持ち悪くなんかないよ。ごめんなさい。盗み聞きするつもりなんか、なくて」
子供の頃、母親の代わりに佳織に抱きついたときの感情とは全く違っていた。
髪の毛から香る、シャンプーの香り。
思わず吸い付きたくなる、だけど少し以前より細くなったような白い首筋がそこにある。
だけど、そんなことはしてはいけない。
悠斗は分かっていた。
大事な友人の母親にそんなことをしては、気まずくなるだけだ。
「ありがとう。慰めてくれてるの?悠斗くんは優しいね」
悠斗の気持ちとは裏腹に、悠斗の言葉に対して佳織はあくまで「おばさん」として答える。
悠斗は、背中をぽんぽんと軽く叩かれた。
熱がじわり、と背中から広がっていく。
「おばさん…」
思わず、悠斗は佳織の頬にキスをした。悠斗が今出しうる、最大限の勇気だった。
「ありがとう。悠斗くん優しい。もう寝よう」
佳織はそう言うと、何事もなかったように自らの寝室へと向かった。
「母さん、今日仕事休みだったよね?悠斗、二日酔い酷いみたいだからあとで水持ってってやってくれる?はみがきしてるとき、ちょっとしんどそうだった」
いつもなら朝食を食べて解散となるのだが、出勤する岳にそう言われ、佳織は岳の部屋へと水の入ったペットボトルと、グラスを持って向かう。
ノックしてドアを開けると、ベッドの横に敷いてある布団に悠斗は横たわっている。
「悠斗くんの分もご飯作ったけど、おうち帰った方が楽なら、帰ってもいいんだよ?
テーブルの上にお水置いとくね。もしかして二日酔いじゃなくて、本当に体調悪かったりする?」
悠斗は何も言わず、首を横に振った。
「本当?」
佳織は腰を落として、悠斗の額にそっと手を当てた。
まるで、子供に対して優しくする母親のように。
洗い物をしたのだろうか、ひんやりしていて気持ちいい。
「ちょっと熱いかも。ご飯なら、今日おばさんお仕事休みだし、お昼に食べちゃえばいいから気にしないでね。おうちで寝る方が楽?」
そう聞かれたが、悠斗は何も答えずに佳織の体を掛け布団の中に引き寄せた。
「わっ悠斗くん?!」
佳織の体は悠斗の上に覆い被さる形になる。
「ーーあ…」
佳織の腹に、痛いほど勃起した悠斗のそれが当たる。
悠斗が帰りたがらなかった理由が、わかってしまった。
「体調悪いから、慰めてよ…。おばさん」