(番外編)ゲリラの魔女姫チェルシー-1
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新たに降伏した要塞都市の一つの領有を確定するためには、つい先日に小さな武装勢力拠点を人員ごと手放さなければならなかった。とはいえ、直接の指揮統制出来ているわけではなく、後ろ盾になっている末端の山賊集団でしかない実態からすれば惜しくはない。
各種のゲリラの連合勢力と、各地方での有力な州軍閥の連合勢力での対立は続き、さながら戦国時代のような様相を呈している。双方とも緩やかな同盟関係でしかないわけだが、大雑把に敵・味方で色分けされていることになるが、カルトゲリラ側勢力は数が多い反面で個々が好き勝手にバラバラで内部対立も頻繁。その辺りが「地方政府」を自称して村人たちから支持を受けている個々の州軍閥の連合体が、一応は共同歩調で防衛と民生で協力しているのとやや異なっている。
味方によっては「州軍閥連合体」もまた、多数ある武装ゲリラ勢力集団の中で最大規模・高水準な一つという見方もできるかもしれない。ただ、最大の違いは母体が戦前の軍隊や警察と地元官僚機構・有力者を中心として、地域住民・村人たちに信望があることだろうか。十全でこそなくとも、少なくとも、古い価値観の尊重や住民の生活や人権に配慮している姿勢が、大きいだろう。
概して言えば、生産性は州軍閥側の支配エリアの方が数段に高く、獲得すれば利益は計り知れない。「収奪」が基本思想のゲリラ同士で物資や利益の奪い合いするよりも割が良いため、最優先の攻略・侵略目標になる。ただし防御も堅いため、日々にスパイ工作や恫喝などで利潤の横取りや制圧が試みられている。
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今回の「功労者」たちが、うら若き女性幹部チェルシー少佐(大手ゲリラのボスの娘、実はセラの異母姉)の前に引き立てられてくる。
それらは買収された政治家や、虚言デマのよる撹乱活動などで活躍した知識人や報道関係者、また買い占めやスパイ工作や集団での虚言と煽動した一般人を偽装した潜入工作員と裏切り者数百人。
みな、いくらかの不安を滲ませながらも、期待に顔を輝かせている。この要塞都市(州軍閥の一つ)が降伏に追い込まれたのは、彼らによる日々の卑劣な裏切り行為の積み重ねによる部分が大きいだろう。だから進駐・制圧したゲリラ側からすれば「功労者」ということになる。
その「世の中を舐めた考え方」が致命的だった。
代官や支配者になれるとでも思ったか?
甘い! 甘すぎる! 笑うしかないだろうよ。
チェルシーは晴れやかな笑顔で手下どもに言った。
「殺せ! できるだけ惨(むご)たらしく、殺せ!」
だって、自分自身が住んで養われている都市や村を裏切って、防戦している身内を後ろから殴り続けてきた連中なわけで、そんなもの「敵・味方以前に信用できない」からである。一片なりとも良心やプライドがあれば、普通の村人や下層労働者ですら恥じて躊躇い拒否するような卑劣な真似を、それなりの社会的地位でありながらやり続けた不逞の輩が少なくない。
しかも多くはたいして生産性もなく、むしろ裏切り行為と組織犯罪などマイナスであることを職業にしているような奴も多い(知恵もたいしたことがないし、勇敢さや戦闘能力もなく、およそ何の役にも立たない「寄生虫」)。けれども犯罪者やテロリストみたいな奴らなら、直属の配下に幾らでもいる。ゲリラ側が欲しいのは、真面目で生産性の高い被支配者とインフラであって、本当に価値があるのは「こいつら」では全くない。
あくまでも、敵対中に撹乱や制圧するための「道具」として有効だから、裏で金を渡したりして優遇・援護していただけでしかなかった。だがこの要塞都市・州軍閥拠点が降伏してしまえば、もはや用済みなのである。ここは住民への機嫌とりも兼ねて、パパっと殺してしまえ。そんな冷酷で合理的な判断なのであった。