（番外編）ゲリラの魔女姫チェルシー-2
3
もはや用済みとなった大馬鹿者たちは、城壁外に並んで寝転ばされた。反抗や拒否は絶対に許されず、鉄拳や銃床でぶん殴られた。抗弁しようとした玉城デイニーズは頭の皮を剥いで見せしめにされる。
その上に都市内から徴発してきた真っ白いシーツが敷き詰められる。寝転んだ不逞の者共は、すっぽりと隠れて見えなくなる。凹凸で｢下に何かある｣とか、近くで見れば｢たぶん人が寝転んでいる｣とでもわかるだろうか。
｢な、何をするんだ？｣
｢こうするんだよ！｣
ロボットウォーカーの、巨大な鋼鉄の足で歩き回り、踏み潰していく。
白いシーツが血に染まっていき、見えないながらに状況を察して立ち上がろう・逃げようとした者たちは監視に射殺される。チェルシー自身も先日に調達（窃盗）したガラパゴス・グレートで、ガンガン踏み潰してご満悦であった。上空から見れば、白いのが赤くまだらになっていくのがよくわかったことだろう。
その無残な一挙処刑の有様は、有線放送で都市内にも実況中継された。｢真偽を軽んじた者を成敗する｣という名目で、これまで割を食って降伏に追い込まれた住人たちの溜飲を下げると共に、ついでに｢逆らったら貴様らもこうだぞ｣との脅しの心理効果であった。
あとで血染めのシーツを｢雪赤旗｣として、街中に飾って勝利宣言する。
4
｢同胞にだ、同胞ある｣
どうやら、チェルシーの母親と同じ、東アジア大陸や半島系の者たちが、様子見していてあとで出て来た。
｢どうして名乗り出なかった？ 協力者に召集がかかっていたはずだが。待ちわびていたが｣
涼しい顔のチェルシーに、後から出て来た利敵分子数百人がおそるおそる告げた。
｢怖かったし、さっきの非同胞みたいに殺されたら嫌にだ・ある。間違って殺されたらと思ったら｣
｢間違ってやったわけではない。しかも貴様らは、出てくるのが遅かったし、同胞だからな。念入りに殺してくれようぞ｣
泣き叫びながら、軍服ゲリラ兵士たちに引きずり出されていく。
待っていたのは｢茹で殺し｣。
中国大陸や朝鮮半島では、犬肉がポピュラーなだけでなく、人肉もまた｢両脚羊（二本足の羊）｣として隠れた裏の伝統高級食材である。東南アジアや昔の日本やヨーロッパでも犬肉はしばしば食されたが、｢ロボット世界大戦争｣前の世界で、さすがに人肉を伝統料理として確立したのは（略）。
その晩に、都市や軍の有力者たちを招いた晩餐会のための、貴重な肉料理の逸品となった。
5
それから、都市内部の内通者の女たち（家族も含め）は、ほぼ全員が配下のゲリラ兵士たちのための性奴隷にされた。多少の乱暴狼藉や略奪には目をつむるとしても、都市住民から過度の恨みを買わないためには、生贄として手ごろで好都合でもあったからだ。
チェルシーからしても、自分たちの都市・国家を売り渡すのに協力した馬鹿者どもになど、同情する気にはなれなかった。信用できない。
およそ信用できないといえば、部下の山賊集団のようなゲリラ兵士たちも、ある意味ではそうだった。目先の利益と蛮行のためにやっている連中が多く、信頼できるのは自分個人の親衛隊くらいのものだっただろう（それですら半分は真のボスであるチェルシーの父親の私兵でしかない）。
この要塞都市で｢一国一城の主｣としての地位を確立するためには、むしろ都市住民や周辺の村人たちを自分の味方にしなくてはいけない。ある意味では軍や官僚などは、当面の配下の半ば所属の怪しい便宜主義の山賊たちよりも、有能で信頼できるかもしれない。
チェルシーはいざとなれば、自分と腹心の者たち（直属親衛隊や外郭部隊の賛同者）だけで州軍閥側に寝返ることすらも可能性として考えている。父親のボスのことは尊敬や信頼していたが、恐れて嫌悪している面もあったし、群雄割拠のゲリラ勢力（連合体とすら呼べるか疑わしい）では何が起きても不思議はない。