或る阿媚嬌喚地獄の終焉(第二章・完)-1
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人質交換による人数が増えてから、ある現象が目に見えてわかるようになった。
「許して下さい、来月結婚する予定なんです! え? 旦那と一緒でもいい? なんでそうなるんですか!」
「ただの同居家族で、爺さんやアポジ(親父)、オモニ(母ちゃん)が何をやっていたかなんか、知るかよ!」
「やめてください、勘弁して! まだこの子は十?歳なんですよ。まだ責任能力なんて」
ついにキレた州軍閥の執行部隊が、町中をトラック駆け回って、これまで見逃されていた背信分子を引きずり出す。逆らえば問答無用で警棒やブラックジャックでぶちのめし、道端に引きずり出して投げ出し、その場で跪かせて射殺されたり。無慈悲な大清掃。
むしろこれまで、スパイ工作や越境犯罪の幇助を集団ネットワークで(要塞都市や味方の村テリトリーで)やりまくっていたのが、せいぜい警告だけでナアナアになっていたのがおかしかったのかもしれないが。
古い歴史のマルタ騎士団と同じで、残酷で良心のない敵に対抗するには、同じような過酷なやり方が案外に有効だったり。少人数のマルタ騎士団が北アフリカ蛮族のイスラム海賊に対抗できたのは、捕虜を奴隷にして鞭打ち蹴飛ばして、船の漕ぎ手などに虐使していたからだそうだ(さらには識別不能な商船だろうが無差別攻撃して、敵方の町を攻撃して荒らし回ったり、どちらが海賊かわからない凶暴性・攻撃的態度だったとか)。逆に海賊による拉致被害者のキリスト教徒の奴隷を救出するために、献金を集めて買い戻した救出騎士団・修道会は舐められて、余計に拉致ビジネスの動機にもなったらしい。(注:塩野七生「ローマ亡き後の地中海」参照)
「舐めるな! これまで散々にやらかしやがって! ふざけるな! 甘ったれるな! こっちが受けた被害や内部撹乱の損害、お前らの犯罪の犠牲や拉致された奴らの立場になってみろ! お前らなんかは、お友達のゲリラと山の集落で籠もって好きにしてろ、送ってやる! な!」
州軍閥の果敢・前衛的な判断・英断で、家族などに国家反逆・利敵行為での有罪者がいることによる「連座での粛清」が拡大適用されるにつれ、たとえ自分たちが軽度の素行不良であっても、本人たちが本格的に悪行加担した者と比べて不満が高まる。「自分はあいつほどには悪さしてないのに同じ罰なのが悪平等」という、人質交換でゲリラ村に送られた女たち同士でのいがみ合いである。
つまり内心に「あいつらのせいで自分たちまで巻き添えになった」という心理。まだ拉致された女同士(救出された人ら)であれば、お互いに境遇と不幸を哀れみあって助け合う気持ちにもなるだろうが、彼女たちの場合にはそうではない。お互いに責任を押しつけ合う理由と条件が揃っていたし、元から個々の性格もあまり良くないのだからブレーキや抑制が働かなくなる。
女は感情や情緒の感性が豊かなぶん、一般的には(男より)「優しい」とされている。しかしだからこそ、逆に無関心な相手に冷淡だったり嫌いな相手に容赦がなくなることも多い。合理的に割り切りがちな男以上に、持続的な感情を基準であるから、なおさら陰険だったり。
だからナタリア・パヨカやナツキ・イー・リャンなどは仲間うちでの「イジメ」のいいターゲットであった。日常に罵るだけでなく、殴る・蹴るは挨拶や食事と変わらなくなる。
あいにくゲリラの男たちは、奴隷女たちが絶望による破れかぶれな暴挙に出るのを危惧していたため、「ガス抜き」として見て見ぬ振りした。じきにエスカレートして、女同士による公開虐待・調教ショーを一緒に見物して拍手喝采しだす。「巻き添えにされた」被害者意識のある側からすれば、自分たちと同様に不特定多数の男から集団性暴行されるだけでは罰にすらならず、「もっと酷い目に合わせる」ことに邁進する。
それで衆人環視の中でマングリ返しで恥部から花火を噴き上げたり、男より小さい女の手でフィストファックされたり、ダーツ針で「オッパイの的」にされたり。同性・女同士ゆえに色仕掛けや性欲で誤魔化しはきかない「純然たる虐待」で、陰惨な「懲罰」の所業は酸鼻を極めたらしい。