或る阿媚嬌喚地獄の終焉（第二章・完）-2
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そのときナツキ・イー・リャンが脱糞しそうになったのには、彼女にしかわからない理由だった。
来客は、別のゲリラ組織から交渉にきた若い女性（二十歳前半くらい）。髪の毛は黒く、瞳はブルー。一目でアジア系と白人の混血だとわかったが、おそらく母親が中国系か日系なのだろう。
あの｢悪魔のような少女｣（セラ）に似ていた。
たぶん、腹違いの異母姉か何か。
聞いたところでは、大規模ゲリラのボスの娘で、有能な幹部として頭角を現しているらしい。美女というだけでなく、怜悧で冷酷そうな知性の閃きが、目と面差しを見ただけでわかる。
チラとナツキを見たとき、多少の関心を示して｢あれは？｣とゲリラ士官に小声で訊ねる。｢コリアンの雑種女です｣と答えると、｢そうなのか｣と小馬鹿にしたような蔑みの表情を浮かべた。
｢あれはいらない。どうせつまらない犯罪者で、自業自得だから｢同志｣の遺族とは言えない。それで、こちらでお世話になって臨時に挺身・慰安任務している、軍閥官憲から捕縛や処刑された同志の家族の女性たちを引き取りたい。替わりの奴隷は人数割り増しで引き渡すから、それで手打ちにして頂けないだろうか？ あまり、人質交換で軍閥の犬どもが罪人扱いで引き渡した敵方の協力者家族を奴隷替わりで虐待すれば、評判が悪くなって今後の我々に協力者の徴募にも支障をきたす。拉致した人質がいなくなったり少なくなれば、こちらの拠点での防衛面での人質と盾にもならなくなる｣
使者の女の喋り方からしても、理知的で知能が高いことが察せられる。内心でこのゲリラ拠点で起きている｢味方人員の家族女性｣の境遇を快く思っていないようだったが、あまり非難がましくならないように、言葉と説得のロジックを選んで話しているようだった。
彼女はゲリラ士官の男に少し近づいて、クスリと誘惑的な微笑を投げる。吐息が届くような距離で。
｢｢荘子｣の盗賊の話ではないが、犯罪や悪行をやるにしても、仁義なしには規模と継続性が不可能になる。貴官たちは最前線で苦労されているから、無闇に粗を探す気もないが。交代で引き渡す奴隷の人数や状態については、こちらでも案配するつもりだ｣
つまり、今回の人質交換でこのゲリラ拠点に州軍閥が送った女性たちを、別の大規模な支配エリアに引き取りたいという交渉と提案らしい。力関係からすれば命令に近かっただろうが、あくまで体裁上は相手のプライドに配慮した態度だった。このゲリラ幹部の女は交渉や説得などで高い知性と有能さを発揮しているそうだった。
その手は、ゲリラ士官の股間をズボンの上からまさぐっている。
｢そうだ！ あれ、お願いできないだろうか？ ついでの、ごく個人的な頼みだが｣
その場で、ゲリラ士官の将校たちは敬礼した。
話がほぼまとまったようだ。
この狂った女傑があちこちで｢チンコ魚拓｣をコレクションしているのは、一部では噂として知られている。｢男の命と急所をいじるのはなかなか楽しいもの｣などと言って、手づから墨を塗って面白がっているそうだ。会議にわざと露出的な服装で現れて男どもを幻惑したり、秀逸な悪女ともっぱら評判な人物であった。
この数日後から順次に、ゲリラから引き渡された奴隷女（拉致された捕虜）との交換で、アキダホや他の州軍閥から送られてきた女たちの身柄引き取りが開始したとか（どうせ同じような下働き労働と慰安・買春の生活であっても、境遇や扱いとしてはかなりベターであるらしい）。
ただし、それは｢進歩的協力者の連座した家族｣に限られ、あからさまな犯罪者や｢不要な人間｣は除外。だからナタリア・パヨカやナツキ・イー・リャンは対象にならず、引き続き（略）。なお、直後の致命的なアクシデントがあったため実際には時間的に交換と引き取りが｢間に合わなかった｣とも言われている。