Perfume-6
「貴方は・・・・・?」
「俺はこの薔薇園の管理や薔薇の手入れを任されている、まぁ管理人と言ったところか」
「この薔薇・・・・もしかして、全てを貴方1人で?」
「まあね・・・・もっともアウザー家がここを造った直後までは他に数人いたんだが、今では俺だけってとこだ。
薔薇の育て方や品種改良や何やらは殆ど任されているから、好き勝手させてもらってるよ」
管理人を名乗る男の言葉に、セリスは内心驚きを禁じ得なかった。
一見して一介の庭師か作業員の風貌の目立たぬ男だが、彼1人の裁量で薔薇園の全てを任されているとなると、
見た目とは真逆の知識の深さとセンスの良さが必要になるからだ。
やはり人は見かけでは計り知れないものだ――――――――――――――
「・・・それにしても、ごめんなさい。作業の邪魔だったかしら」
「別に・・・・見かけない顔だね。他の街から来たのか?」
どうやらセリスの正体に気づいていない男の問いかけを幸い、セリスはあえてフィガロ王妃の身分を明かさず、1見学者を装おうとした。
「ええ・・・・この街の知り合いに会いにサウスフィガロから」
「随分遠くから来たものだ・・・・この薔薇園は初めてかね」
「そうですね・・・・私も薔薇を育てるのが好きだから」
「・・・・なるほど。道理で熱心に薔薇を見ていると思ったよ。ここの薔薇は俺が世話しているんだが、その辺りの薔薇は俺が特に手を加えた逸品なんだ。気に入ってもらえてありがたい」
そう言うと、管理人を名乗るその男はセリスから問われたわけでもないのに、青い薔薇に関する知識をやや早口で語り始めた。
よく知られていることだが、薔薇の品種は多岐にわたり、通年花を咲かせるためには、苗の選定から施肥剪定更には病虫害対策まで長い時間をかけて手を加えていくことが求められる。
セリス自身も気に入っている青い薔薇については、交配の段階から細かい部分にまで手間暇をかけて栽培することが求められる為に、他の薔薇以上に知識と根気が求められるのだ。
(それにしても、彼が・・・・・)
管理人の話す薔薇に対する知識や薔薇園の管理に関する経験談を聞いているうちに、
セリスは自身が推測した通りであったことを悟る。
つまり、目の前の1管理人がほぼ1人で薔薇園内の薔薇の大半を直接手入れし現在の華やかさを現出させた裏付けについて。
(たった1人でこれだけの薔薇を・・・しかも、知識が凄いわ)
セリス自身が薔薇の栽培に携わっていることもあり(あくまで趣味の範疇であるが)、目の前に立っている男の凄さに内心舌を巻かざるを得なかった。
またセリスを前にしての説明も、ただ知っている知識を披露するだけのものではなく、“薔薇を育てる同好者”向けの助言も要所に散りばめられていた。
その為聞いているセリスの方も、いつしか管理人個人への警戒以上に、薔薇そのものに対して熱心に話を聞く態度と関心を示していた。