Perfume-21
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――――――ジドール中心部の高級ホテル
「セリス様!!」
「王妃様!!」
日が西に沈み、ジドールの街に夜の帳が降りようとする頃、
ホテルの中央ロビーをせわしなく行き来していた侍従や侍女達は、ホテルの正面入口から入ってきたセリスの姿を目にするや、安堵の声をあげながら一斉に集まってくる。
「あれほど言っておりましたのに・・・セリス様!!こんな時間まで一体どちらにいらしたのですか!!」
「もうセリス様は王妃として公人の立場にいらっしゃるのですから!!」
「ご自身も腕に自信があり、仰々しい供回りを避けたい気持ちも分かりますが、もし万が一のことがあれば!」
「国王陛下からもセリス様のことは注意せよと言われているのですから!!!」
自分を囲む形で矢継ぎ早に苦言を呈してくる供回りや侍女達。
セリスは自分に否があることは分かっているので一切反論することなく、
ペコリと頭を下げて素直に謝った。
「ごめんなさい、皆に心配をかけてしまって・・・・私自身は仰々しいのが苦手なのは分かっているんだけど、これからも行き先も知らせておくし、長居や遠出を避けるようにしていくから」
もしセリスの顔つきや表情について外出前のものを覚えている人間がいたとしたら、
謝罪するセリスには外出前にはなかった“艶やかさ”や“上気した肌の名残”といった何気ない“変化”に気づいたことだろう。
もっとも居並ぶ供の者達には、それが単にお忍びをしたことにより羽を伸ばした結果であると特段気にもしなかっただろうが――――――――――
ここでセリスを囲む人々は、彼女がその左手に抱えている花束とそこから漂ってくる香りに意識と視線を向けた。
「王妃様、その花束は・・・?」
その問いかけに、セリスは改めて抱えていた花束を自分の正面に持ち上げる。
侍従や侍女達の目に赤・青・白・紫・黄の5色の薔薇が燦然と輝くといった表現がぴったりの状態で、白い花束の中で咲き誇っていた。
その薔薇達が発する別々の香りが辺りに漂い、文字通り甘い空間が現出する。