Perfume-14
「・・・・・・・」
立ち去っていく主人の背中に向け、無言で一礼していた管理人の頭がゆっくりと上がる。
主人の姿が完全に視界から消えると、管理人は辺りを見回してから静かにドアを閉める。
そのまま部屋の奥に向かい、入口から死角になっている窓際までやって来ると、床に敷かれた古びた絨毯をめくり上げた。
現れたのは地下に向かう為の出入口。
(分かりゃしない・・・・・)
セリスが訪れた時の痕跡を、椅子から紅茶のカップに至るまで片付けていたのは幸運だった。
管理人から見て並の女性相手には大抵目の前のベットで相手する。
アウザーも黙認しているとはいえ、その事に気づいている。だからこそ室内の様子に目を配っていたようだったが。
(・・・・“上玉”はこうして地下室で楽しんでいるということを)
名前は口にしなかったとはいえ、自分が地下室に移した“金髪の女性”がアウザーの探している女性と同一人物であることは早い段階で察していた。
(ご主人もお目が高い・・・・まぁ、今回は自分が横取りさせてもらう形になったが・・・・悪く思わないでくれよ)
――――――ギィィィ・・・・・
管理人が出入口の蓋の取っ手をゆっくりと上に引き上げると微かな金属同士の擦れ逢う音が響き、目の前に地下に降りる鉄梯子が姿を現した。
地下へ向かう通路は大人2人ならば通れるだけの空間は確保されている。
彼自身もこの小屋や地下室の由来について詳しいことは知らない。
しかし管理人として小屋に常駐するようになって地下室の存在を確認してから、密かに様々な資材を運び込み、様々な手を加えて今日に至る。
これまで実際に地下室に連れ込んだ“上玉の女性”は10人足らず。それだけ気に入った女性とお目にかかる機会がなかったわけだが。
(・・・・さて、と)
窓のカーテンや室内を一瞥した後、管理人は机の上に置かれた花瓶を手にする。花瓶の中には今日摘み取ってきたばかりの“薔薇”が様々な色合いを見せて活けられていた。
管理人は左脇に花瓶を抱えると、手慣れた手付きで鉄梯子に右手をかけるや、そのまま地下に向けて口を空けている降り口に身体を滑り込ませた。
そして地下への出入口を隠すかのように、蓋が音をたてて閉じられた。
――――――ガチャァァン・・・・