Perfume-13
――――――ドン、ドン、ドン・・・・・
10数秒程度の静寂の後、床を軋ませつつドアの裏側に近づいてくる足音。
次の瞬間には勢いよく内側からドアが開き、中から管理人の見慣れた顔が現れた。
「これは、旦那様。・・・・・何かありましたか?」
「あ、ああ・・・・実は自分を訪ねてきた女性がこちらに来たと聞いてね。探しているんだが、見掛けなかったかな?」
アウザーは管理人にセリスの特徴を伝える。無論相手の名前や身分については明らかにはしなかったが。
だがアウザーの問いかけに対し、管理人は表情を変えることなく首を横に振る。
「確かに何人か貴婦人方は来ていたようですが・・・・お探しの女性の姿は」
「そうか・・・・・・」
一瞬アウザーは目の前で向かい合う男の顔色の変化を盗み見る。
一見愛想が良くないが、アウザーには及ばずとも、薔薇園を訪れている女性を時折連れ込んでいることも薄々知っている。
それを承知しているからこその微かな疑念だったが、管理人の表情に全く揺らぎは見られない。
彼の肩越しに小屋の奥にも視線を走らせてみたが、室内には人の気配はなく、部屋の片隅に据えられた使い古しのベットにもそれらしい乱れはなかった。
「そうか・・・・分かった、もういい。手間をとらせたな」
「いえ・・・・・・」
アウザーは肩から大きく息を吐き出すと、はたから見ても残念さを滲み出させた表情を浮かべると、くるりと向きを変えて屋敷の方に向かって歩きだす。
(かつてのように、セリスを・・・・絵画のモデルにした時のようにして、絡めとった姿で楽しめたかもしれんのにな―――――――――)