(過去後編)白馬の騎士は放浪の殺戮メカでした-1
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こうしてパトリシア(過去の二十歳前)の絶望的な虜囚生活が五ヶ月近くになった頃、とんでもない偶然の事件が発生し、幸運にも救いが訪れることになる。
荒野を彷徨っていた野良ウォーカーの一体が、盗賊ゲリラ村に乗り入れて襲撃してきたのである。通常の拠点は過去の戦時中データなどから、そういった事故が起きにくい場所を選んでいるはずなのだが、人工知能(AI)が特殊な命令や仕様になっているのか、お構いなしに踏み入ってきたのである。
その野良ウォーカーは身長が二十メートル近くある、ノッポの痩せ型で「電信柱」のようだった。全体的にホワイトカラーでスレンダー体型、肩周りのアーマーはブルー。巨大な騎士か骸骨を連想させる勇姿は圧巻。
盗賊ゲリラ村側にもロボットウォーカーは複数台・十台以上も存在していたけれども、それらのカニのようなキャンサー型は背丈が十メートル少々しかない。機関砲を備えていたけれども、それらは対人や対車両には十分有効でも、しょせん大型ウォーカー相手にはジャブ程度の効果しかない。
結果、ロボット同士で接近戦の殴り合いになる。
野良ウォーカーの細長い腕の先には、折り畳み式のナックル・クローがついていて、振り回す遠心力を活かした打撃の威力の凄まじさ。振り下ろす拳が空手チョップのように直撃すれば、わずか数発の攻撃でキャンサー型は圧壊・大破してしまう。
しかも野良ウォーカーも胸部と頭頂部に機関砲を備えており、乱射するたびにゲリラ兵士たちは血煙になって蒸発してしまう。まるで終末の大魔神のような殺戮ぶりで、股間から発射された火炎放射器の炎がコカ畑を焼き払い、天を焦がすようなオレンジ色の光と毒々しい煙が地獄のように立ち上った。
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ちょうど部屋で夜のノルマ行為の最中だったパトリシアは、ゲリラの男たちが中断して飛び出していってしまったので、ミレーユとその場にとり残された。
おそるおそる外を覗いて、異変の実態を目の当たりにして絶句する。他のゲリラの縄張り争いでの襲撃ならば、コカ畑を燃やすのはおかしい。州軍閥などによる討伐作戦ならば、たった一台だけというのが奇妙だったし、見た感じでは古いタイプの大型ウォーカーのようだった。
「野良ウォーカー?」
ひょっとしたら、どこかの奇特な村人がスタンドプレーで単身の殴り込みの可能性もなくはない。しかしそれにしても「一台だけ」というのは流石に変であるし、たぶん野良ウォーカーが何かの拍子に迷い込んだのだろう。
パトリシアはそれでも駆け出していた。
肩掛けだけのほとんど裸のまま、騒乱の方向に走る。小脇には、昼のコカ畑での労働に持参する小さなバッグ。それには水筒とビスケットや替えのシャツなどが入っている。履くのが面倒だったスカートも手にして。
どのみちにこのままでは絶望しかないわけで、一か八かのチャンスには興味を惹かれた。今度はミレーユを誘うことは考えなかった。彼女を説得している余裕があるとも思えないし、ドサクサで強引に逃げても失敗して今度こそ殺される危険も大きいから。