(過去後編)白馬の騎士は放浪の殺戮メカでした-3
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やっぱり、強化ガラスの向こうのコックピットは空だった。人工知能のオートモードで動いていたのだ。
けれども、パトリシアはとっさにある行動に出た。
コックピットに自ら乗り込んだのだ。
座席シートの左右の大型望遠カメラが自分を見て、まるで助けを求めているように思えた。キャノピーに手を触れると、何もしていないにも関わらず、開く。逃げるという考えすら浮かばず、「一緒に戦う」決意が出来てしまっていた。同じ無残に死ぬにしても、せめて殴り返してからでなければ気が済まない。
幸い、それまでに村の作業で、小型ウォーカーの操縦の経験はそれなりに積んでいる。しかもこの謎の大型放浪野良ウォーカーは、旧式であるらしいこともあって、操縦系統も知っている小型ウォーカーとあまり変わらないように思えた。
しかし、一味違ったようだ。
コックピット内部の小型カメラのレンズから「視線」を感じ、パトリシアは自分のあられもない姿が急に恥ずかしくなる。この機体は高度な人工知能を持っているわけで、それはたぶん、過去の男性パイロットの魂の一部のコピーみたいなものかもしれない。
そんな感傷の余裕もなく、シートの備えつけの特製ベルトが自動装着される。ベルトというよりも、ショックアブソーバーの一部のクッションのような(普通のベルトも別にあったのだが)。
(カプリコン、バイオメトリックス・センサー? デミ・オート、バトルモード?)
液晶モニターにそんな文字が表示され、コックピットのシートそのものが二メートルほど降下する。頭上が左右から閉ざして遮蔽され、初期状態でシートの左右にあった大型カメラレンズが目玉のように光る。さらにはパトリシアの座った背後から、大型ヘルメットのような被り物が下りてくる。
後で知った話では、パイロットの視線や脳波をモニタリングすることで、人工知能コンピュータの状況判断と統合するシステムの初期試作品だったらしい。
「うわっ!」
特殊ヘルメットの裏に映された映像で、グレート・ガラパゴスの踏みつけ攻撃が見えて、悲鳴を上げる。
しかし「カプリコン」は器用に素早く転がっていて、立ち上がる。
次いで殴りつけてきた腕を、さっきまでとは異なる機敏さでかわす。華麗に細い腕で受け流し、カウンターパンチで敵のコックピットを抉る。コックピットはカプリコンと同様にバトルモードで封鎖防御していたようだが、それでも複数の目玉(大型カメラレンズ)にダメージがあったようだ。さらには流れるような膝蹴りで突き飛ばし、よろけたところへ空手チョップ。
致命傷には至らなかったようだが、それでも敵方の動揺は明らかだった。
バイオメトリックスで人間パイロット(パトリシア)の視線や脳波をトレースして、演算装置の計算の一部に取り込んだことで、人工知能コンピュータの判断はより的確で素早くなったらしかった。