(過去後編)白馬の騎士は放浪の殺戮メカでした-2
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胸部の機関砲を乱射する野良ウォーカー。
あちこちで悲鳴が上がっている。
片っ端から問答無用に撃ちまくり、住居や車両も壊しまくり、殺しまくっているようだった。とっくにキャンサー型が三台くらいは完全破壊されている。
(まさか設定がオールキルの殲滅モードになっている?)
稀にあることで、野良ウォーカーの多くは元が軍事用であるだけに、人工知能には「戦え」とか「皆殺しにしろ」という命令モードがある。それが何かの拍子にオンになって、目の前に人間がいたらどうなるか、考えるまでもないことだろう。
パトリシアは衝動的に、薄い肩掛けだけのほとんど裸のままで、讃えるように両腕を広げて進み出ていた。
本来の最初は「逃げる」つもりだっただけに、奇妙な心境だった。きっと心が疲れ切っていて、「もういいや」とどこかで思ったのだろう。また逃亡に失敗したら、凄まじい懲罰の虐待やなぶり殺しされるのは目に見えている。それよりはあの機関砲で撃たれた方が、一瞬で即死できて楽に死ねそうだったから。
(もう殺して、私を)
それでも、機関砲が吠えたときには足がすくんだ。
こちらを向いた銃口が火を噴くのが見えていた。
足元に小水が小さなシミを散らしたはずだった。
けれども、彼女は死んでいなかった。
そして周囲には、ゲリラの男たちの新しい死体が幾つも転がっていて、年若い子供のような少年兵二人が、腰を抜かして「怒れる怪物」を見上げているのだった。
(私、まだ生きている? あのロボット、ちゃんと区別して撃っているの?)
非武装の女や少年兵士は、さっき銃弾の降り注いだ死の領域にいたはずなのだった。しかし攻撃を当てるのを「避ける」という器用な真似をやってのけた。
よほどの巧みな操縦パイロットか、それともAI(人工知能)が賢いのか。後者ならば、プログラムがうまく出来ているか、あるいは過去のパイロットの行動パターンから学習したのだろうか。
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ややあって、このゲリラ村で秘蔵の最強ウォーカーが登場してくる。背丈は野良ウォーカーとほぼ同じ(少し高い)だが、胴体や手足のゴツさでは上回る。グレート・ガラパゴスは最新式に近い軍事用ウォーカーで、その戦闘能力は凄まじい。
たぶん無理だろうとは思いながらも、見守るパトリシアとしては野良ウォーカー「電信柱の騎士」を内心で応援して、その場からほとんど動けない。
二台の巨大な準人型ロボットの殴り合いが始まる。
だが、案の定の展開だった。
いかんせん、パワーで劣る。
少しの小競り合いのように小突きあった後、胴体にパンチの直撃を受けて転倒してしまう。野良ウォーカーは吹き飛ばされるように倒れた。
いてもたってもいられなくなったパトリシアは、コックピットとおぼしき頭部(胸部にめり込んだ形状だが)に走った。もしパイロットがいるのなら、せめて一言お礼が言いたかったし。それに無人と知っていたとしても、なんとなくそうせずにいられなかったはず。
この場で、自分たちのために戦ってくれた「味方」であるように思えたからだ。まるで自分が殴られたような痛みが胸を襲っていた。