凶悪な村娘たちの色恋と純情(プロローグ?)-1
1
「男とのキス? 経験あるけど」
セラの返事に、パトリシアは目を丸くした。記憶にある限り、セラが男と交際していたとは知らない。そもそも、人気は高いが相手にしていない感じ。
鳩豆な顔の相棒に、セラは人差し指を立てて解き明かした。
「お兄ちゃん。こんな世の中じゃ、いつ何がどうなるかわからないから、せめてファーストキスくらいはって。まあお兄ちゃんだったら許容範囲だけど、どこまでやっちゃっていいものやら」
セラは薄い胸に腕組みして思案顔。ややあって考えを切り出す。
「パトラは? 私はパトラだったら、お姉ちゃんになってもオッケーだけど。今日も香水なんてつけてたし、嫌いじゃないでしょ?」
「そりゃ、嫌いじゃないし、好きは好きな方だけど。年下だし、遠慮するじゃん。こんな中古の年上とか」
「あの元ゲリラの男の子とか、あの姉ちゃんとヨロシクやってるでしょうに。あとで妹に払い下げするかもとか言ってたけど、パトラだったらお兄ちゃん大喜びで飛びつくと思うけど」
人によって感覚は違うだろうが、二歳の年齢差は、特に若いうちは大きかったりする。特に女が年上の場合には、早く老けるので申し訳ない気がしてしまったり。
それにパトリシアは、過去にゲリラから暴行されたことが根深いトラウマとコンプレックスになっている事情もある。
にわかに目を逸らして黙り込んだパトリシアに、セラは親指の爪を噛んだ。それから黙って、寝る前のハーブティーを注いでくれた。同じ寝袋で同衾すると、それだけで安堵して妙に泣けてしまった。
2
二日後。
またセラの兄レオが来て、他のチームとの荒野への共同播種の話し合いをしたとき。
「兄(にい)って、本当は荒野の自生小麦を撒くより、パトラに種蒔きしたいんじゃない? ウェルカムってすれば、絶対飛びついてくると思うけど」
二人になったセラのさりげない囁きの言葉で、パトリシアはハーブティーを吹き戻してしまった。それからの打ち合わせで、パトリシアは彼の顔を直視できず、ドギマギした態度で不審がられた。
なぜかセラが直前に洗濯した、女二人分の下着が並べて干されていた。来訪時にパトリシアのパンティが風で青年の顔に吹き寄せたのは、たぶんセラが何かわざとやったとしか思えなかった。
「男の顔を拭いたパンティなんて。私の新しいのをパトラにあげるから、それ貰っとけば?」
「大丈夫だけど。その、どっちでも」
レオ青年は最後まで判断を留保し、最後に机上の淫靡な布一枚に苦悩の視線を寄せたあと、遠慮して忘れたふりで去っていった。