芋掘りレジスタンス村の日常(第一章の後日)-1
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セラがたむろしている野犬どもに手を振ると、犬ころどもは目を丸くして「あっ、好きな人がいる」の瞳孔反射の表情で耳をそばだてた。常日頃から盗賊ゲリラのバラバラ死体などで餌付けしていることもあり、妙に懐かれて番犬軍団や固定ファンのようになっている。
よく昔話で吸血鬼を「狼の牧者」などというけれども、浮世離れしたところがあるセラはさながら吸血鬼のお姫様のようだと、パトリシアはしばしば思う。見た目の美しさと性格がなんとも。
「はい、整列! シャンプー!」
ちょっとした水場である。
パトリシアもシャンプーとブラシを手にし待ち構える。だんだんに「飼い犬化」するにつれて、定期的なシャンプーや狂犬病などの予防接種を行う用になった次第。
セラと二人で、十匹以上の野犬ファミリーを洗って、バケツの水で流す。
それから、傍で見ていた「分与希望者」に、仔犬三匹と親犬二匹が貰われていく。あまりに頭数が増えすぎると、餌の分量など面倒をみきれないので、就職先・暖簾分けということ。きっと貰われた先で番犬として可愛がって貰うことだろう。
その「犬分与」の希望者には、あの元盗賊ゲリラ上等兵の少年と、救出された年上女性(二十歳前?)のカップルもいた。先日に壊滅させたゲリラの基地で知り合っていて、関係があったらしい。女性からしてもわけのわからない男たちにひたすら乱暴され続けるより、まだこの少年の方が好都合でフィーリングがあったらしい。それで少年も忍ぶ恋よろしくぞっこんになっていたらしく、救出作戦には参加していたのだった。
そういえば要塞都市では、今回の事態を危惧したゲリラやカルト集団による報復テロが相次いでいるとか。村人や難民を偽装してくるなど諸々の卑劣さもあって手を焼いているそうだ。
ただ、それだけにこの少年上等兵のような優良な帰順者は歓迎される。奴らは構成人員に赤ん坊を育てる手間を省くため、女性だけでなく十歳過ぎたくらいの大きな子供を拉致することも多く、家族の概念すら崩壊している鬼畜だったから。だからこの二人が「戻ってこれた」のは不幸中の幸いだったのかもしれない。
だから犬は暗黙に、お祝いのプレゼントでもあった。