芋掘りレジスタンス村の日常(第一章の後日)-2
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ロボットウォーカーの保有者には、敵の盗賊ゲリラや野良ウォーカーが来たときには、村人を守って戦う「交戦義務」がある(たまにあちこちでロボット同志が殴り合いしている理由)。その代償として、村からメンテナンスサービスを受けられる仕組みになっている。
この「野良ウォーカー」というのが曲者で、昔の戦時中の無人殺戮ロボット(人工知能で発電・修復機能つきで基地まである)が大量に野放しで放置されており、文明社会が激変して再建不可能な原因の一つでもある。
ただ、村人たちもしたたかで、それらを耕作に活用しようという動きがある。
「よし、放すよー」
カプリコンが抑え込んでいた野良ウォーカーの腰には、鋤(すき)がついている。
解放された野良ウォーカーは、村人が乗っている囮の小型ウォーカーを追いかけて歩き出し(走ろうとしているが諸般事情で無理)、引きずった鋤で荒れ地を耕していく。鋤が深く地面に刺さるように、カプリコンが後ろから押さえて手伝ってやる(結果的に引き止めて追跡の速度低下)。
幸いにも機銃やレーザーなどは壊れて(壊して?)あるので、囮の村人の小型ウォーカーが蜂の巣にされたり焼かれる心配はない。後部座席の村人が小銃でたまに野良ウォーカーを撃って気を引いて、わざと追いかけさせるのだった。
「この辺りって、地面が硬くて岩だらけだけど、耕したらちゃんと芋や野菜が育つかな?」
「先に土壌改良で、ちょっと余所の土を撒いた方がいいかも。あと肥料とかミミズとか」
ミミズは土壌改良に使える生物兵器だ。
しかしパトリシアの何気ない返事に、セラは腹部コックピットからの通信で、ゾクリとした息遣いを吐いた。
「嫌なこと言わないで。ミミズは嫌い」
そういえば、セラは「ミミズの養殖プール」に落ちたことがある。トラウマになるほど悲惨だったらしい。
「思い出すだけで身体中がゾワゾワする」
有線通信で呟くセラの声はいつもと違う。
パトリシアからすれば「この娘も人間だな」と微笑ましいだけだが。
「今、ちょっとだけ笑ったでしょ?」
怒ったような、拗ねたような声が可愛らしい。
昔からしたら打ち解けたものだと思う。パトリシアからしたら、余計に笑えてしまう。ずいぶんと普通の年齢相応の女の子らしくなったかもしれない。
「なによー?」
「私からしたら、セラの指や舌のほうが「よっぽど」だけど。セラがミミズを怖がるとか、けっこう「似たもの」じゃないの?」
二つのコックピットで若い娘たちが有線の談笑する間にも、半自動操縦モードのカプリコンは野良ウォーカーと(二人三脚のような協力作業で)大地を耕していく。ひょっとしたら機械である彼らも、在りし日のことを思い出しながら旧交を温めているのだろうか。