晩御飯と発狂ラジオ-1
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スレンダーな電信柱のような巨大ロボット「カプリコン」は、膝を逆に曲げる形で胴体を垂直方向のまま、地面に立てることが出来る。すると足と腿の付け根が地面に設地し、さらには長い腕が肘や前腕で支えになって安定する。
このキャンプ・待機形態でも、電子頭脳のAIは機能し続けている。そうして特に晴れた日には、食事は背中の荷台で煮炊きの料理が出来ることになる。
ややグラマラスな若い女と、もう少し小柄な娘が荷台で鍋を囲み、採取した肉と野菜をバーナーキットで煮込んでいる。
「よく働いたわー!」
くたびれた中に充実感と満足感の声でパトリシアがのびをすれば、シャツを脱ぎ捨てた豊かな乳房のボディラインが踊る。電気ランタンと調理中の火灯りに揺れる影が艶めかしく、素肌のままのバストや背筋の曲面がオレンジ色に光り輝く。
セラの金色の髪も、炎の色で赤みがかっていた。彼女は濡らしたタオルで汗を拭いて、バケツでゆすぐ。ゆったりめのジーンズまで脱ぎ捨てて、ほとんど裸同然。それでも座って風除け・転落防止壁に少し隠れるようにしているのが慎ましさだろうか。
小さな腹の虫。セラは呟く。
「お腹空いた」
肉を切り取った「脚の骨」は、とっくに遠くの地面に投げ捨てていた。まだけっこう肉が残っていたから、きっと野犬や野生豚の餌になることだろう。幸いに、塩漬けの豚肉もあったので、刻み混ぜ込んで半分ミンチのようにして、一緒に煮込んでしまった。
可憐で整ったセラの横顔は人形のようで、あまり表情がない。しかしどこか冷酷そうな印象は間違いでなく、子供のような純情と残虐さが入り混じっている。彼女はナイフさばきが巧みで、動じずあの「脚」から肉を切り取った手際は上手いものだった。
パトリシアはベルトに安全帯を付けて荷台の縁に片足かけ、アンモニア放物線の水条を飛ばしている。ずいぶんな勢いだった。
「もう!」
セラはわざとらしく恥じらってみせる。実際に頬に光の加減だけでなく、血の通った火照りがさしたようだった。この娘は同性愛者で、寝床で小さな猛獣のようだったりする。作業を終えて休息モードだから、余計にそういう心理なのかもしれない。
こんな世界の「作業」でも、狩猟と採集だけではない。
半分野生であるとはいえ、芋・根菜類や野菜はもともとは人間がそういう作付けをし、豚などもそういう種類を放流したのだ。一見は原始生活に見えてそうではなく、実態は粗雑な農業と放牧である。だから「村」ごとに縄張りテリトリーがあるし、それなりにルールもある。太陽光・地熱発電で勝手に無人稼働している「オート基地」から化学肥料などを持ってきて散布したり、場合によっては散水も必要だ。逆に基地に稼働継続のための材料を運ぶこともあるのだし、ソーラーパネル群の装置施設が故障で火災が発生することも稀にある。