知ってしまった父さんの内緒-1
父さんと博物館を見学した、冬のある日。
途中、出土品の解説を聞いた。
その待ち時間のあいだ館内をうろうろしてたから、博物館を出た時にはすっかり太陽が傾いていた。
電車から降りたら、もうあたりは闇。父さんは苦笑して言った。
「うちの町は暗いなぁー。車窓を見とったら、うちの町に近づくにつれて灯りがなくなっていくやんか。」
「そやけど、」私は言った。「星がキレイに見えるから、この町ええわ。満月のころなんか月の光で自分の影がうつるくらいやもん。」
「なるほどね……視点いろいろやな。」
私たちは商店街の近くを通りかかった。
商店街と言ってもヨソの地域以上に寂しくなってる。
(私がちっちゃいころは、冬のころにはイルミネーションつけたりしとったのになぁ……)
その商店街の奥の方を見た父さんが「あれ、紙やさんに灯りついとるな。」と言った。
そしてそっちに向かって歩きはじめた。私もあとをついていった。
「紙やさん」は小さな文具店だ。店の前面はガラス窓とガラス戸になっている。
ガラス窓やガラス戸の枠は木だ。父さんが生まれる前からの「昭和時代」の手ざわりがする。
他の店がシャッターをおろしているのに、紙やさんのガラス窓は明るかった。
ガラスを通して見ると、店の中の品物までその時代からあるんじゃないかと思ってしまう。
父さんがガラス戸をガラガラと開けた。
「はい、どうも…… おっ?」店には私が見たことのない男のひとがいた。父さんを見て立ちあがった。
「こんばんは……」父さんが言った。「店のほうはどないですかー?」
「いやー、『その場稼ぎ』の毎日やわ。」
どうやら父さんとそのひとは知り合いのようだ。
「ヘタしたらこのへんも、再開発を企むヤツに放火されてしまうんかな。」
父さんが物騒なこと言うと男のひとは、
「いやいや、」と手をふり「そんなヤツらがこんな所相手にしとらんわ。」と苦笑した。
私は二人の話に耳をかさず、店のなかを見回した。
いつもガラスをこえてとどく外の光に照らされるさまざまな品物が、いま天井の白いLED照明に照らされている。
それらは別もののように、輪郭が鋭くとがって見える。
毎日のように高校の帰りに「紙やさん」を訪ねる私。店の名前にもなっているノートやメモや手帳、原稿用紙の紙類、そして筆記具はみんなその顔ぶれを覚えてるくらい「お気に入り」なんだ。