麗しき牝獣の本領(最終話)-5
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その頃、用務員の服装で爆弾発信機首輪をつけたロシアンパパが、掃除機を操ってプラットフォームの床の清掃業務に励んでいた。
娘の職場を綺麗にておいてやりたいのは親心であるし、捕虜の強制労働としては極めて生易しい限りだ(シベリアの戦犯収容所でなくて良かった!)。おまけに鵺とコアラに頼んで自室に作業台と道具のスペースを設け、駅の土産物にするのにマトリョーシカの手芸製造が認められている。
(これが終わったら食堂でボルシチかウハーでも夕食に食べよう)
知っている味だと思ったら、メニューの発案者はサーシャ(サリーナ)だとか。ロシアの伝統料理の、キャベツや魚のシチューで、かつて亡き妻が夫のために作ってくれた家庭料理の懐かしい味だった。食べたら涙が出た。
ポケットからウォッカの小瓶をとりだして一口二口グビリと飲んで、ロシアンパパは鼻唄混じりにクリーニングするのだが、性格がズボラなので床の掃除跡が斑になってしまっている。
髭武者のロシアンパパは、あとで仕事中の飲酒のことなどでサリーナに叱られるかもしれないが、しょせん「どう転んでも天国」なので特に気にしていなかった。