異次元メトロは戦時中-3
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およそ一週間後、鵺(ぬえ)のオルペウス号は別のミッションに就いていた。
日本語ではない言語で「帰国御一行様」とかいた旗を持ったタヌキが引率する、東南アジア系らしき男女十数名が乗客である。インド人やトルコ人らしき者もいるが、皆だいたいはホッとした顔をしている。
「はい、皆様どうぞこちらの車両へ。それからこっちがお昼御飯になります」
車掌代理の磨乃は、移動に時間がかかるのでツアー特典で駅弁と土産物の紙袋を配布している。
ベトナム人らしき兄妹らしき小さな男の子と女の子が、母親らしき女性に別れを告げて乗り込む。小さな女の子がぐずるのも当たり前で、元の世界での母親はとっくにコロナで亡くなっているのだ。最初は妹の方は旅行先の母親が生きている(そして逆に子供の兄妹二人が死んでいる)パラレル別世界で定住することを考えたのだけれども、男の子が中国系か韓国系の高利貸し(旅行先の世界で彼らの一家を苦しめていた)を刺してしまったので(一人めった刺しで殺して高利貸しの店に放火したとか?)、やっぱり元の世界に兄妹で逃げ帰ることにしたのだとか。
磨乃は(語学が得意分野なので)断片的に言っていることを聞き取れたのだけれど、どうやら少年は「ママ、軍人になって復讐してシナ人とコリアンに復讐する」「アメリカ軍が攻めてきたらジャングル戦でやっつける」「日本人のお人良しや白人のマヌケ野郎をカモにして逞しく生きる」など、母親に泣きそうな笑顔で誓っているようだった。
(うーん、あとで鵺さんに話して相談した方がいいかも)
鵺だったら、ちょっとくらいは上手くたしなめてやってくれるかもしれない。
こうしてお客様たちが乗り込んでしまうと、タヌキの旅行添乗員(ベトナム風の傘を被っている)がペコリと頭を下げた。
「いやはや、申し訳ないです。こっちのアセアン(東南アジア諸国)の電車が故障しちゃって、パラレルワールドから帰れなくなってたんですよ。他にも上手く帰れずにいた人らとかまで乗せて頂いて」
日本や欧米だけでなく、東南アジアやインド・トルコでも、摩訶不思議メトロの路線・車両は存在する。ただ運行精度が日本に比べるとイマイチで、欧米と比べても本数も少ないのが現状で、しばしばパラレルワールドから帰れなくなったりすることもあるらしい。
それで今回は振り替え輸送で、日本の友好駅のオルペウス号で送り届けることになったのだとか。
「発車進行!」
こうしてオルペウス号はメトロ国際駅から繋がる増発プラットフォームから滑り出して行った。