母として、友として許す!-3
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「いんやー、あのときのアヤちゃん、ありえないくらい怖かったわー。本気で夜叉か般若みたいな鬼の形相してたし、殺されるかと思って命の危険感じて、チビッちゃったわよ」
ビール缶を片手にサエは親友・義妹のアヤ(玲の母)に思い出話して笑う。
大昔の出会い頭、今亡き彼氏(リク)との現場にその異母妹のアヤが乗り込んできて「泥棒猫」呼ばわりして襲いかかってこられたことがある。
二人の女の修羅場は数次に渡り、一度など、アヤは激するあまり包丁まで持ち出してきたことがあった。「あなたって「硬いの」好きなんでしょ? だったらこれ、挿入てあげようか?」と冷たい声で言われた戦慄は忘れ難い思い出だろうか。アヤ本人曰く「ただの脅しと皮肉」だったそうだが、あながち冗談を言っている目ではなかった。
しかしアヤにとって結局のところサエは「好きなタイプの人間」だったようで、サエにとってもこの義妹を嫌いになれなかった。
それから何度も絡まれ、セクハラ勝負まがいにレズ関係の日々が続いた。だんだんにアヤはサエにうちとけてなつくようになった。日常的にやっているうちにお互いに本気で楽しくなってきたのと、徐々に「義理の姉妹」としてすっかり意気投合してしまって、今ではただの親友以上の関係になっている。
「うーむぅー、あの頃は何回か本気で殺意持ったこともあったけど。サエさんは良い人だったからまだ良かったけど、他の人だったら「殺して埋めてた」かも」
「ひどーい」
サエは笑いながらも「この子だったらやりかねん」とは思う。
執着は尋常ではなく、彼女の兄のリクが逝去した際には、危うく後追い自殺でもするのではないかと気遣った時期もあったほどなのだ。そんなアヤが、簡単にリクを他の女に譲るはずもなく、あの頃には修羅場だけでなく、三人での乱交になることもよくあった。
「だって「かけがえのないお兄ちゃん」だもの。愛の奪い合いほど過酷な戦いはそうめったにあるわけじゃなしに。宇宙戦争や世界大戦より、ずっと身近な話なんだし。世の中の男どもなんてのは鈍感だから、そんな単純なことが分かってないのよ、ウフフ」
アヤはアヤで楽しそうに笑いながら、同じビール缶を手にして楽しそうだ。
ともあれ二人は「可愛い玲にとうとう同年代の婚約者候補(?)が出来た」ことに、勝手にささやかな祝杯を挙げているのだ。およそ女同士だと、その手の色恋沙汰の情報が伝達・共有されるのは電光石火の趣がある。
「それにしても私って、そーゆー属性や宿命なのかしらねー。アヤちゃんだけじゃなくって、あの子にもそういう目に合わされたことがあるのよ、二十年位前に」
「そうね、話してたわよねー」
それは、まだ語られざるもう一つの物語。
実はサエもまた、過去に地下鉄の不思議現象で別世界に行ったことがある。
ただしアヤの場合と違い、彼女が遭遇して情交したのは平行世界のリクではなく、未来の世界の玲だったのだけれども。
サエはそんな特異な経験もあるだけに、今の世界の玲にも思い入れはひとしおだったのだ。だからアヤとしてもその地下鉄経験談を聞いて知っていただけに、どうせ同じことなのだし、サエに追加でサービスしてやれ(息子の玲と好きなだけどうぞ)と考えるのも自然だったのかもしれない
「あの「地下鉄」で未来に行って、リクがいなくなって寂しいからって、息子の玲君と思いのたけを晴らしてたのよ。玲君もムキになっちゃって、親父のリク君に競争心が沸いたんでしょうけど、二日間くらいグチャグチャのドロドロになって」