第二次アポロ作戦-1
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大局として、中国大陸のマーカーの確保と無力化には、国際政治と軍隊の出動で決着をつけるしかなかった。危ない綱渡り・薄氷を踏むような交渉と恫喝合戦が繰り返され、また各国合意によって「ユニトロジー・テロリスト」への取締りも進んでいる。
だが残された最たる課題は「月」をどうするかということだった。半分覚醒した状態の月をそのままに放置すれば、いずれ「収束」による地球の破滅を招くことは目に見えている。しかしあの巨大な質量を、破壊したり外宇宙に放擲するのは至難の業でもある。
そこで研究が重ねられた結果、「月を殺す爆弾」が開発されることになった。それは通常の爆弾と異なり、爆発による破壊力というよりも、ある種の特殊作用をもたらすものである。どちらかといえば「ダーティーボム」に近いもので、ボーリングマシンで月面から地中に潜り込んで炸裂する仕組みになっている。その開発にはエリーが彼方の宇宙の決戦の場で収集した(宇宙遺跡起動時の)観測データがものを言った。どうやら特定波長の電波が、何かしら月の具合を狂わせるのだという。
もちろん実際にどうなるかわかったものではないから、投入の是非では議論が紛糾した。
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けれども観測データから「いよいよ収束が近い」との結論が出されたため、ついに決断に踏み切らざるを得なくなる。
作戦名は過去の月面到達にちなみ、「第二次アポロ作戦」と名づけられ、合計で七機のロケットが打ち上げられることになった。
「行くしかないだろ?」
「だな!」
アイザックとカーヴァー軍曹もまた、その作戦チームに加わった。
そして辿り継いだ月面の、灰色のはずの砂は、赤や青や緑の燐光を放っていた。
七つのチームは月面バギーで巨大なボーリングマシンを駆使し(重力が軽いことは非常に幸いだった)、それぞれが五十前後の「月を眠らせる薬」の金属カプセルを打ち込んだ。複数あったプランの中で、それが最も安全度が高いとされた決定版である。
やがて月は不可思議な虹色の輝きを失い、もとの灰白色の死のような眠りにつく。
けれども帰還したシャトルに、アイザック・クラークの姿はなかった。
「あいつは?」
しばし口ごもったカーヴァー軍曹はニッコリと微笑んだ。優しい笑い方だった。