玄人の交渉・説得術-1
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地球防衛側の強攻策で、どうにかこうにか人類側の反撃の準備は整いつつあった。中には「平和主義だから〜」などと、わけのわからない理由で協力を拒否する大学・研究機関もあったのだが、アイザックが遊びに行って説得すると翌日には「人類のために協力を惜しみません」などと、百八十度に態度を改めることが何度かあった。
大統領が概ね察しつつも、同行することの多いカーヴァー軍曹に訊ねた。
「彼は、いったいどうやって説得したんだろうね?」
するとカーヴァー軍曹はこんな風に答えた。
「彼の場合は「経験豊富」ですし経験者の言葉は重みが違いますよ。それに宇宙工学やら生物学やら、それなりに知識もあるから説明もするし。あと、実物のネクロモーフを一匹二匹持っていって、目の前で切り刻むんです」
「ほう? それでは象牙の塔(大学)の先生方へのお土産に、大人用の紙オムツを持って行けるように、予算を許可しておこう」
この大統領の思いやりは的を射たものだった。アイザックの「状況説明」を受けた学者先生方は、その場で恐怖のあまり失禁や脱糞してしまうことがしばしばで、気絶してしまうこともままあるという困った事情がある(もっとも中には面白がって助力を確約するマッドサイエンティストもチラホラ、そういう物好きな手合いはたいてい役に立つ)。
カーヴァー君は困ったようなおかしそうな苦笑いしながら付け加えた。
「医者・看護婦と救急救命車両を付き添わせておりますので、そちらの費用もお願いします。けが人が出たり、精神的ショックで臨死体験なさる方がいらっしゃるので」
「ふむ。葬式の花代くらいは費用に含めてよかろう。死体袋はレンタルしてやっていいが、棺桶やミサ代はご本人やご家族の自己責任、自腹でどうにかするように言ってやりなさい」
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噂をすれば影。基地内を歩いていけば、目の前の廊下で、ちょうどアイザック・アシモフが体操しているところだった。その手には得物の一つである釘撃ち機が輝いている。屋内でイメージトレーニングでもしていたものらしい(ユニトロジストの狙撃を恐れてあまり外に出ない)。その顔は病的な元気さに輝き、さながら童心に返った無邪気さであった。
そのすぐ横で、エリーさんが頭を抱えている。「ねえ、一度でも心理カウンセラーに看て貰いましょ? あなた最近、ちょっとおかしいわ」などと語りかけながら。