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『お気に入りの大きな黒い傘』
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『お気に入りの大きな黒い傘』-3

 音が少し違う。と思った。私の傘に雨が跳ねる音と、青田君の傘に雨が跳ねる音。何となく違う。でもイヤな感じじゃないな。それに、柄がよく手に馴染む気がする。何となく、うん、親しみやすい感じ。ちゃんと雨から守ってくれるし。両手で、きゅっと柄を握った。
 青田君、大丈夫かな。と思った。明日返さなきゃいけないな。

 家に帰ると、よく傘の水を切って丁寧に傘たてに立てておいた。

 次の日の降水確率は10%だった。
 朝の道を歩く人の中で、傘を持っているのは私だけだった。借り物の紺色の傘を、両手で抱きしめるようにしながら、青い空をちらちら見上げて歩いた。青田君、風引いたりしてないかな、とか、私の傘は今日、見つかるかな、とか、そんなことを考えた。それから、やっぱり青田君は私のことが好きなのかな、とかそんなことを考えて、私は、心の中で小さくにやけた。

 大きな黒い傘は、私は今も大事に使っている。そして時々、私にはかつてお父さん居たということと、青田君の紺色の傘のことを思い出す。


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