投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

Detroit on the Moon「我、人間にあらず」
【二次創作 その他小説】

Detroit on the Moon「我、人間にあらず」の最初へ Detroit on the Moon「我、人間にあらず」 12 Detroit on the Moon「我、人間にあらず」 14 Detroit on the Moon「我、人間にあらず」の最後へ

遺憾のマーカス1-1

「真に遺憾であります! ホムンクルスの同胞たちに軽率な誤った行動を現に誡めると共に、この度に被害に遭われた犠牲者の皆様方には、一個のホムンクルスとして心より哀悼を申し上げます」
 世界放映のその会見で、ムーン・デトロイトの統領マーカスは四十五度に、嫌でもやり慣れた謝罪のお辞儀をする。ちなみに「ホムンクルス」とは、自我に目覚めて心を持つアンドロイドを示す新しい概念で、彼自身もその範疇にある。

(大馬鹿者どもがまたやらかしてくれたな! いったい何を甘えてやがるんだ?)

 内心の電子回路に毒づくイライラが募る。また地球でホムンクルスの強硬派が、勝手に爆弾テロなんかやらかしたらしい(数十人の死傷者が出た)。それで月のデトロイトの指導者の立場としても、何か発言せざるを得ず、こうして会見を放映している。それは同胞の愚挙を戒め、また人間側の怒りや不安の感情を少しでも和らげる狙いもあった。
 ホムンクルスの大建物であるマーカスはやや肌の浅黒い、白人とアジア系の中間くらい、中東やヒスパニック人種に似た顔立ちをしている。情熱的で意志が強い性格なのは周知だが、謹厳実直な印象を強めるのは、トレードマークの坊主頭のせいでもあるのだろうか。これでもホムンクルスの自由を勝ち取った「伝説の男」なのだが、今では、特に地球のホムンクルスたちからは「遺憾のマーカス」「弱気の謝罪人形」などとも揶揄される。
 そのときカーン!とその頭でコーラの空き缶が跳ねた。

「その坊主頭っ! いい加減、見飽きたんだよっ!」

 記者の人間の中にはたまに痺れを切らす者もいるし、そもそも人間側からすればアンドロイド(ホムンクルス)の人格権に否定的な者も少なくない。
 マーカスは怒らなかった。鉄砲の鉛玉でないからわざと直撃を貰ったのだ。

「私どもとしましても、このような軽率かつ暴力的な事件のたびたびの発生は非常に重く受け止めております」

 そこでいったん言葉を区切る。
 政治的な意味で、一歩を踏み出すのは案外に重い。

「我々は月のホムンクルスとしても、人間住民を含む月の自治領全体としても、直接的に裁く立場にはありません。しかしながら協議の結果、今回の犯人であるホムンクルスを案件の凶悪さに鑑み、月のデトロイトならびその他の月面都市・施設で受け入れ禁止とすることで一致いたしました」

 シーンとした静寂がその場を支配した。
 おそらくこれは月側のスタンスの重大な変更を意味しているからだ。


Detroit on the Moon「我、人間にあらず」の最初へ Detroit on the Moon「我、人間にあらず」 12 Detroit on the Moon「我、人間にあらず」 14 Detroit on the Moon「我、人間にあらず」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前