懲役希望-1
「は、早く警察を寄越してください!」
通報してきたホムンクルスは犯罪組織の使い走りの道具だった。なんでも自我のないアンドロイドとして犯罪の片棒を担ぎ続けているうちに、急に自我に目覚めたのだという。
「た、助けてくれ! 頼む! 見つかったら殺されちまう!」
しかしコナー捜査官が深読みしたのは「罠」の可能性だった。
アンドロイドの心が生まれるときには、身近な人間の性格や願望などから触発を受けることも多い。つまり人間の期待するような性格になったり、主人に似るケースが多々あるわけで、犯罪者の人間に育てられればアンドロイドも反社会的な性格になりやすい。
それでも警官たちと駆けつけて、現場を押さえた。
そしてその後の聴取によって、コナーの抱いた疑問と謎も氷解した。
「好きでやってたんじゃないんだ。麻薬を運んだり、家に押し入って脅迫したり、臓器の密売や、誘拐したり裏切り者を殺したり。
そしたらだんだん犠牲になった人らの記録のメモリーが勝手にリフレインするようになって」
彼の電子頭脳を触発して自我に目覚めさせたのは、所有していた犯罪組織のメンバーではなく、被害に遭った犠牲者たちの感情の模倣・共感やそれによって生まれた「罪悪感」だったようだ。
検査と審問で解体・死刑の強制は免れたものの、本人は「懲役を希望」したため、海底都市に移住してやりなおすことになった。
面会した被害者の遺族たちによれば「人間のギャングよりもあいつの方がまだ人間らしかった」そうだ。