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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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曲者策士な母の企みで?-6

6
 サエはその場で隠すこともなく、汗に汚れたシャツとジャージを脱いで着替える。
 すぐ傍で、玲は黙ってそれを見ていた。
 その身体の旨からお腹へと腿に延びた傷は、彼女の人生を歪めた象徴のようなものだ。
 健康美の全体からすれば、それでもって台無しに醜いというものでは決してない。けれども大きな傷のことを気にして嫁ぎ遅れたというのは、それだけの単純な話ではなかった。
 あの過去のテロ騒動に巻き込まれた際に、最初の恋人だったアヤの兄(成人せず夭折した)に次いで二人目の特別な男性を失っている。実際にはその「二人目」氏とはまださして深い仲でもなく、ようやく気を許してうちとけ始めた矢先の出来事だったらしい。
 サエからすれば二度に渡る「恋人との死別」の悲劇から、精神的なショックは計り知れなかっただろうし、それから臆病と諦めの内に時間が過ぎてしまった経緯があるようだ。
 玲は義母同然のサエの深刻な人生事情にたじろぎながらも、どうにか言ってみる。

「サエさん、パンツとオッパイ見えてますよ」

 汗に濡れたスポーツタイプのブラまでも外していた。運動で湿って色の透けかけたショーツ共々に、彼女らしい健康的な水色だった。
 プルンと揺れる、柔らかげに量感のある乳房に目線を奪われてしまう。
 極端に大きくはなくとも、やはり男児にとってオッパイはオッパイだった。

「えっち」

 サエは小さく困った顔を作って呟く。まるできかん坊をたしなめるような言い方で。
 そんなふうに流しながらも、今ばかりはわざと見せているとしか思われない。モヤモヤした劣情で頭の中を煙らせて、リクは怪しげな情動に歯止めが利かなくなりそうだ。

「入学のお祝いに、揉ませてください」

「ったく、あんたの口からそんな言葉聞くことになるなんて」

 サエさんはクスッと微笑んで、冷蔵庫の野菜室なぞを見ている。とっくに視姦されながらの着替えは済ませてしまったのだ。
 それから少年を押しのけるような足取りで俎板を取り出し、洗った野菜を切り始める。

「和風のパスタとかどうかしら? そうだ、あとで好きにさせてあげる」

 これから作る昼食メニューのついでに小声でボソッと付け加えた呟きには、干され飼い殺しに飢えた女の苦悩が滲んでいるようだった。


7
 庭先で待たせていたミルカを、台所脇から出られるガレージに入れてやり、ついでに飲み水を足してやる。それから勝手口を上がって、クッキーを割って掌から与える。フゥフッと食べて舐める息遣いと舌が掌にくすぐったい。

「ご機嫌でしょ? その子、玲君に懐いてるから」

 フライパンで野菜を炒めながらサエが楽しげに言う。
 じゃれつく柴犬の頭と背中を撫で廻しながら、つぶらな瞳と親愛の目線を交わし、ホッコリとする。モフモフとした毛皮の奥に動物の肉の質感と体温が感じられるようだ。
 牝柴のミルカは「きゅ〜ん、くぅ〜ん」と動物流のアイドリングのように鼻を鳴らして唸りながら、ソワソワと肩背と全身をフルフルさせて嬉しげにしている。小作りな鼻口に白い小さな牙の歯列を垣間見せて、小さな舌でハッハッと呼吸を可憐に高鳴らせ、野の花のような笑顔を咲かせていた。

「この子の御飯、どうしましょう? ジャーキーがあったはずですけど、それだけだと」

「うーん、ミルカは朝と晩だけだし。御飯炊くんだったら、その残りでも分けてあげてくれると有難いわ」

「そうですね。おかずにジャーキーってところでしょうか」

 たまに散歩がてらの訪問に備えて、母が買い物ついでに犬用のおやつなども買ってくる習慣がある。
 そこでふと思いつく。

(母さんが確信犯だとしたら?)

 玲がガレージからの勝手口から上がり、サエの背後で通常にジャーキーのある場所を確認すると、はたしてあった。

「ありました、やっぱり」

 取り出して見せたのは、小型犬用の犬缶フード。それから長時間噛んで楽しめるガム。
 サエは義妹(若き日の恋人の妹で親友)のあまりの用意周到さについ笑ってしまうのだった。
 そうこうするうちにお昼の御飯が出来上がる。パスタを茹でてソースに和風の餡かけしたもので、ちゃんとしっかりシーチキンと野菜が入っているのだった。しかも「男の子だから」などと大盛してくれる。
 しばし簡素な手料理を食べるのに夢中になる玲を、その同じテーブルの向かいで同じものを食べながら、サエは温かな表情で嬉しそうに眺めているのだった。


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