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ありふれた言葉でも。
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ありふれた言葉でも。-3

「勿論。どうぞ」
「ありがと、先生」

きゃー、と歓声を小さくあげて、バタバタと音を立てる。
どうやら足で地面を叩いているらしい。

その向こうから、バスが走る音が聞こえた。
「あ、相川。バス行ってないか?」
「え?あああっ!もう、運転手さん声掛けてくれたら助かったのに」

しょげた声を聞いて、滝田は笑う。

「駅まで送るよ」
「やった、ラッキー」
喜ぶ夕香との電話を切り、バス停に向かう。すぐに、手を振る夕香を見つけて拾った。

道すがら夕香はクッキーは兄の彼女に教えて貰って焼いたのだとか、彼女はアキラという名前だとか、兄が大根ケーキを作ってみろと彼女に提案して困らせているとか、色々な話をした。
夕香は上機嫌である。
滝田は相槌を打ちながら話を聞く。楽しい、と思う。

駅前まであっという間だ。適当な所で車を停める。

「じゃあな、相川。お菓子ありがとうな」
「ううん。電話ゲット出来たから」

夕香は自分の笑顔が好きだと云うけれど、自分も夕香の笑顔が好きだと滝田は思う。

何処かへ連れて行ったら、もっと色々な表情を見せてくれるのだろうか―――。

そんな事を考え始めたのはいつからだろう。随分前のように滝田は感じる。

「あ、相川。これお礼だ」
滝田はポケットから、レモンの喉飴を出して渡す。

「ありがとう」
「考えたら、よくある話だと思うんだ」
「何が?」

飴を大事そうに鞄にしまいながら、夕香は首を傾げた。

「教師と生徒の恋愛って、よく聞くだろ?」
「え」
「君を好きになった」
滝田が云うと、夕香は鼻を真っ赤にして泣き始めた。

「フラれっぱなしかと思った」
「外れたな」

頭を撫でると、夕香は赤い鼻のまま笑う。

「先生知ってる?人ってね、好きだって云われ続けると、好きにならないと悪いって思うんだって」
「作戦勝ちってこと?」
「かもね」

滝田は微笑んで、夕香を見つめる。

「負けて悔いはない」
「良かった」

涙を拭うと、夕香は云った。
「メールもちょうだいね」
「ああ」
頬をそっと撫でて、滝田は云う。
「家まで送る」
「うん」

大きく頷いて、夕香は鞄を抱き締めた。
嬉しさを表現するように。

「なあ相川。一つだけ約束してくれ」
「なに?秘密にはしとくよ」

人差し指を唇にあてる夕香が可愛かったけれど、滝田は首を振る。
「僕は正直な君が好きだ。だから」

一つ呼吸をする。


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