ありふれた言葉でも。-2
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放課後、やはり準備室にやって来た夕香の顔を見て、滝田は安堵する。
どうやらまだ気持ちは変わっていないようだ。
「先生、はい」
鞄の中から、綺麗にラッピングしたクッキーとマドレーヌを出して滝田に渡す。
「なんか、妙にプレゼントっぽくなっちゃって恥ずかしくてさ。遅くなってごめんなさい」
照れくさそうに笑う夕香の頭を、滝田は撫でる。
これも癖になりつつあった。
「貰えてほっとした」
「先生に一番にあげたかったんだけど、世の中巧く行かないね」
「そうだな」
「先生、食べたら感想聞かせてね」
そう云うと、夕香は立ち上がる。
「もう帰るのか?珍しいね」
「うん。さようなら、先生」
いつも通り笑顔で手を振る夕香。
ぽつんと、滝田は手作りのお菓子を持ったまま一人にされた。
もう少し居てくれとか、そんな事を云うべきだったのか。
滝田は悩みながら、慎重に袋を開ける。
バニラの香りがするマドレーヌも、市松模様になっているクッキーも美味しかった。
ふと袋を見ると、メモが入っている。
「なんだ?」
そこには夕香の電話番号と、メールアドレスが書かれていた。
「なるほど」
夕香の狙いはこれだったらしい。
滝田はそのメモを持って車に向かう。
流石に他の教員に会話を聞かれたらまずいだろう。
多少の緊張を持って電話をかけると、夕香はすぐに出た。
「早いねー、先生。お腹減ってた?」
「まあね。相川、何処に居るんだ?」
「バス待ってる。いつ食べるか解んないから、メルアドも書いたの」
夕香の声は、弾んではしゃいでいる。
「どうして君みたいな子が、僕を好きなんだろうな。もっと良い相手が居る筈なのに」
「あたしにとっては、先生が一番良い相手なんだけど。先生ネガティブだね」
「そうだな。クッキー旨かったよ」
やった、と喜ぶ声が嬉しい。
「あ、あのさ。先生の番号、登録しちゃっても良い?」
そう問う夕香の声は緊張している。