暗黒司祭とカリーナの帰還-3
3
かくして超絶的で異常極まりない交渉と交換は終わった。やがて暗黒の、魔界的な呪われた車両がバックで遠ざかっていく。
何故か能天気な鵺は「チュース」と手を振ってやる。多少は親近感でもあるのか?
「すまなかったな、皆。「海老」とやりあったばかりなのに、こんな用事につき合わせて」
コアラは小声でながらに礼を言う。
この「海老」とは、パラレルワールドのかけ離れた一部の世界の時間線で優勢になっている、「ホモサピエンスとは異なる甲殻人類」のことだ。そっちの方とも勢力争いや小競り合いはたまに発生している。他にも吸血鬼が支配している世界から変なのが攻めてくることや、超時空の「狂った天使モドキ」が侵攻してくることまであったりするようである。
鵺は冷淡さにいささかの面白みを含ませて言った。
「いや、俺も久しぶりにあいつらのコントやお笑い演説でも見ようかなーって。いっつも思うんだけど、あいつらってシュールレアリズムだよな、存在そのものが」
けれどもコアラにとって大事なのはそのことではない。
置き残された死体袋の中身、ほどけたジッパーから顔を出しているのは、目を閉じたままのカリーナだった。
その胸は緩やかに起伏していた。
コアラがハンディな医療器具でバイタルをチェックしている。
「まずいな。衰弱が激しい。魂が半分蒸発しちまってる」
「ま、大丈夫じゃね? どっちみち「融合」すりゃ、補えるさ」
鵺は横から覗き込んで意見を述べる。
これから「ネメシス号のカリーナ」と融合して蘇生させれば、記憶と魂が二人分でも、同じ人間同士ならさほどのメンタルの齟齬もないだろう。どのみちそうしなければ「このカリーナ」も神隠し・行方不明で終わりなのである。
それでコアラも感慨深げに頷いた。
「ああ。これであの子を現実の世界に戻してやることが出来る」
4
カリーナは現実の世界、別の可能性の時間線へと帰って行った。
オルペウス号での出航を見送るサリーナは寂寥感に溢れて、一等に美しく見えた。そしてコアラは千切れんばかりに猛然と手を振って「頑張れよ! 頑張れよぉ!」と繰り返し叫びながら号泣していた。