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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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影武者ドッペルゲンガー-6

7
 駅近くの映画館。
 二人はやっている映画のポスターを物色してみるのだった。

「これとか?」

 莉亜が指差したのは、シュールな寓意風ギャグ映画だった。
 タイトルは「真紅の小鼠ンスと鳩ポッポちゃん/ABEのキレた日」。いわゆる平成時代に続いた亡国危機の立役者だった国賊政治屋たちを茶化した作品であるらしい(ネズミや鳩のコスプレした往年の売国奴そっくりさんが、竹槍を持った日の丸鉢巻きの愛国者たちに追われている図)。同時上映は「産廃教授たちの失楽園」(赤いトンガリ帽子で並んで正座して、憤怒の自衛官から順番に頭を鉄棒でスイカのようの叩き割られ、あるいは学生たちに校舎の屋上から突き落とされている)。
 けれどもリョウはアクション映画などのポスターを見ながら、その脇のエロティックな作品の紹介もチラ見しているようだった。
 世間一般に女性のあられもない格好や裸体は男どもの目をよく引くものらしい。

「ふーん、なーにがお好みなのかなァ?」

 莉亜は見透かしたような、軽蔑とからかいの半分ずつの目を向ける。その一言でリョウが瞬間だけ硬直したので「図星」だったと察知する。

「そういうことしか考えてないのね。よくこっちの私に嫌われなかったわね」

 すると返って来た眼差しは「お前のせいもあるだろ」と無言のうちに語っている。それはたぶんこの世界の彼女のことで、この莉亜には与り知らぬことだったが。
 とはいえ、リョウが別の莉亜と相思相愛であることはだいたいわかる。
 莉亜としても憎みきれず、ひとまず助け舟を出してリクエストを入れてみる。

「だったら、この世界の、あなたが好きな方の私がもうちょっと元気で、外に出てデートしたとするじゃない? そしたら「したい」と思ってたこととか、どう? それだったら私も怒らないよ」

 優しい思いやりのある彼女のように振舞おうとしたら、即座にカウンターパンチされた。
 リョウは再び「(この世界の)お前のせいだろ」の目をして言った。

「こういう動画って、莉亜の病室でパソコンで一緒に見たことあるし。っていうか、見せられたんだけど」

「何やってるのよ、あんたら」

「あなたがそれを言う? もう一人のあなたでしょ?」

 見透かされているのは莉亜の方だったのかもしれない。
 この世界の彼女がそういう行動をとったのだとしたら、彼女だって似たような環境条件や同じような親密な関係ならば、同じようなことをやる可能性が多分にあるのだろう。

「だったら私のとった部屋に行く?」

 莉亜は切り出した。そしてあの女車掌から手渡されたメモを取り出す。

「あの変な地下鉄の構内に、一晩止まれるホテルみたいな部屋を用意してくれたって言ってたんだけど」

 そこで踵を返してまた地下鉄の駅に向かう。
 一番安い切符を買い、そこから駅構内に入って、手書きの案内地図に従って進んでいく。


8
 やがて人気のない地下街の小道のような場所と空間に出て、そこに「水母の光ホテル」なる看板が現れた。通路にも、透明なガラスのお皿のようなものが幾つも装飾に吊るされて、その上でキャンドルのような炎が燃えている(まるで色とりどりの光る水母が空中を漂っているかのようだ)。煙はなく、ただ安らぐような良い香りが漂っている。
 そこは一目で「普通の場所ではない」とわかったけれども、あの女車掌の紹介でもあるので、さほど迷わずに中に入る。
 入り口のすぐ横のフロントでは莉亜より若いくらいの、黒髪ロングの幻想絵画の幽霊のように美しい少女が座っていた。その肌の色白さは透けるようで、あまりにも整った顔立ちも含めて神秘的なオーラすら纏っている。

「ようこそいらっしゃいました」

 駅員のような制服(?)の名札には「宿泊受付・二宮アヤ」と書かれてある。
 行儀良く差し出されたのはホテルのような鍵だった。

「お部屋の鍵はこちらになります、どうぞ。それからお部屋の中に送信のための設備もございます。古賀莉亜様には、もう一人のこちらの古賀様からメッセージも御座います。それから他にも色々のサービスや設備が。男のお客様、お部屋に無料サービスのホットコーヒーや軽食メニューなどもございますので、もし宜しければお先にどうぞ」

 どうやら麗しく可憐な受付嬢は主に莉亜に向かって追加の説明しているようだった。考えてみればこの不思議な地下鉄の正式な客は莉亜であって、リョウは付属品のゲストでしかない。
 途中から二人の女はヒソヒソ声の会話になっている。鍵を押しつけられ、先に部屋へと歩き出したリョウには聞き取れない。
 そこは地下二階まであるホテルで、各階には四つづつ部屋が存在する構造らしい。


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