待ち望んだ決闘対決-2
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運行予定によって国際ターミナル駅()で停車中の復讐列車では、二人の獰猛そうな男が殺意十分に対峙している。
二人の伝説の格闘家は因縁の対決が叶わなくて絶望していたのだった。
片方は日本人のリュウゾー選手。もう片方は中国人のチュンリーロン選手。
「お前が共産党の弾圧で理不尽に殺されたのは真に遺憾だった」
「お前がコロナで亡くなったと聞いたときには正直ガッカリしたよ」
ストリートファイトのゲームのように、非現実的な暴力行為の対決が繰り広げられる。
ついに決戦の火蓋が切って落とされる。
「ファイッ!」
こういう手合いの扱いは、好きなだけ鼻血が出るまで殴り合わせておけばいいのだ。そのうち力尽き、満足もしてお開きになるだろう。ただし地下闘技場かどこか、他人の迷惑にならない場所でやってくれればそれで良いのである。
雄叫びを上げて猛然と拳を交わしながら、充実して幸せそうだ。
「がんばれー!」
どちらへともなく、無責任に黄色い野次を飛ばして手を叩く。
決戦試合に立ち会う栗毛碧眼の女車掌は二十歳過ぎくらい。
こちらのミス・ネメシスAは同じサキュバスでも、クールでカッコイイ女の色気と魅力がオーラに迸るかのようだ。父親がロシア人で白人の血が半分混ざっているせいなのか、ボディラインはグラマラスで、ふっくらとしたボインの胸のネームプレートには「サリーナ」の名札がついている。
サリーナはエアロボクシングのエクササイズや激しい調子の軽音楽を好むなど好戦的でより積極的な面がある(ロシア的粗暴性もある?)。そういった性格や好みは雰囲気や態度にもあわられるし、ファッションセンスなどにも反映し、「メタルとかやってそう」などと言われるくらいで、特徴的なミニスカート改造の車掌服にはシルバーアクセが光っている。
彼女はスポーツ観戦が割りと好きだったりするのだ。
たとえそれが野蛮な殴り合いのようなものであったとしても。
特に男同士がくんずほつれずするような競技では、見ていて濡れてしまう性質なのだ。
「うん、うん。ナイス・ファイ……」
サリーナは列車の座席に座り、格闘技試合でも鑑賞するような調子で頷いている。
その横ではコアラがユーカリの葉を噛みながら、寂寥感溢れるハードボイルドな眼差しで事態を見守っているのだった。熱い思いを秘めながらも、こうしてわざと斜に構えたポーズをとりたがるのが、このコアラの列車運転手(そして戦闘要員)の性格であるらしい。
「見事なものだな、隙がない。モーションの連携も素晴らしい。これなら三人や四人ならば、造作もなく殴殺できるだろう。これは眼福だ……!」
嘆賞するコアラはユーカリの葉を噛むのを止めた。どうやらこの決闘に敬意を表する気になったのか。彼、こうなる以前の元の世界では、警察の特殊部隊員だったそうな。
これは三本勝負で、一試合ごとに魔法の治療スプレーで全回復させる。
お互いに一本ずつ取り合い、三度目の戦いでは二人とも途中で泣き出してしまった。
それは彼らの運命への悲嘆のなせる業だろう。
実は魂だけでここに来ていて、現実の世界に戻れば、両者とも入院中で末期の老人でしかない。この列車の中では対決のために一時的に全盛期の姿に戻っているだけなのだ。
中国のチュンリーロンは、このリュウゾーがまだ生きている世界では民主派弾圧で死んでいる。それに中国は腐敗と暴政のために国内が崩壊して世紀末のようになり、ただでさえ艱難な時節に全世界からも自業自得の憎悪を買ってしまい(あまりにも非行が過ぎて日本にも世界にも大恥を晒し、国も民族も面目丸潰れで滅亡である)、抗いえない大破滅に突き進んでいるのだから、自分個人だけ多少敬われて長寿であっても救いにはならない。
リュウゾーはリュウゾーで、高度成長期の日本で太平楽に武芸の鍛錬や研鑽・研究している間に、頂上決戦の対決を夢見たライバルのチュンリーロンが不憫な横死を遂げ、衝撃と悲痛な思いを抱いていた。おまけに日本国内でも在日コリアン・不良外国人や左翼のマフィアに跋扈され、将来や次世代にまで国と社会に重荷と禍根を残す始末。終生愛した格闘技や武術の業界もまた反社会勢力に救い難く汚染され、もはや手がつけられぬ有様となっている。もちろん隣国(中国)が国を挙げて犯罪と非行の一大匪賊国家となり、その猛然と腐臭を放つかのような、暗雲のような黒バエがブンブンするような残骸・屍と汚穢の山脈の無残な有様もまた直視に耐えない発狂の真実。