支配の裏にあるもの-3
それがどのくらい続いたのか。
ピタリと電撃が止んだ。
途端に力を失った人形が、両手を枷で吊られたままグッタリと崩れ落ちる。
手足の枷を外して抱き上げた主は、人形を運びながら、ふふと笑って呟いた。
「本当に君は、可愛い人形だね。
これだけ虐めても・・・・・・やめてほしいとは、言わない」
人形は思わず、主の瞳を見つめた。
確かに・・・・・・そう。
人形はこれまでに一度も、やめてくれと訴えたことはなかった。
誓約として制限された言葉を発することはもちろん。
目でも、表情でも、素振りでも。
怯えや苦痛を訴えはしても、やめてほしいと意思表示をしたことは無かったのだ。
(・・・・・・・・・・・・やめてほしいと・・・・・・思わなかったから・・・・・・)
表情を変えぬまま心中で人形は呟く。
ずっと装着されたままだった貞操帯を外し。
温かい布で全身を拭い、手足の傷に薬を塗り込んで布で保護すると。
主はそっと、棺の中に人形を寝かせた。
首を、胴を、手足を、順に拘束していく窮屈な枷。
ぼんやりと虚ろな眼差しで、人形は主の顔を見つめ続けている。
棺には蓋が取り付けられていたが、閉じられたことはない。
主曰く「蓋を閉じると、数日で、気が狂ってしまう」のだという。
だが、人形は知っていた。
この棺はもともと拷問具を兼ねていて、蓋の内側には、ちょうど首と心臓に当たる部分に、針を取り付けるための仕掛けが施されている。
そのまま蓋を閉じれば、労せず一瞬で、あの世へ旅立てるというわけだ。
いまは針は外され、専用のケースへ収められているが。
いつか、その針が・・・・・・取り付けられる日が、来るのだろうか。
「大丈夫だよ」
まるで人形の思いを読んだかのように、主がふいに呟いた。
「ボクが死ぬ時、必ず君を連れて行く。
決して君を、ひとりで残しては、逝かないから」
じっと見上げていた人形の目尻が、微かに下がったように見えた。
蓋の代わりに、棺の内側に敷かれたのと同じ布で身体を覆うと。
主はそっと頬を撫ぜ、人形の目を閉じた。
「おやすみ。ボクの可愛い人形」
生きた人形の、身悶える長い一日が終わった。