走者の葛藤〜ぼくの中の混沌〜-1
走る。
走る。
タイムがあがらない。
上がるどころかワーストレコード。
肺がきしむ。
最近何をやってもうまくいかない。
所謂スランプにぼくのカラダはキシキシと悲鳴をあげながらも走り続ける。
悲鳴のような息をあげて
夏の庭で見た蝉の脱け殻みたいに。
いや、その前だ。
脱皮する瞬間のような気持ちの悪い感覚。
慣れた衣服を破り捨てて
気持ちの悪いリアルに堕ちる感触。
喘息気味に不穏な音色を立てる気管支。
胸が痛い。
黒いモノがぼくの胸の中で蠢きだした。
地を這う虫のように。
無秩序は秩序の対極に息づく獣。
まさに蟲が這い出すように無秩序がぼくの胸を締め付ける。
気持ちの悪い違和感に嘔吐。
走る。ただ走る。
何かが変わろうとしていた。
それを意識しないようにして。
抑まる嵐だと信じて。
ただ
今回は
いつものような
静かな夜明け前のような静寂はそこにはなかった。
靴底に違和感を感じながら。
今のぼくをどう形容したらいいだろう。
無様。
滑稽。
ぼくは
そこに色をつける。
ルールを付け足す。
走り詰めの毎日には
日のボーダラインは見えなくなってしまった。
連続する
昨日と
今日と
明日。
忘れ、憶え、また忘れる。まるで忘れるために憶えるように。
同じようにぼくの中の境界線も今日は見えない。
黒い雲がすべてを覆い隠すから。
昨日のぼくはもう見えない。
ふと冷たい感触。
しとしと黒い雲から雨が滴り堕ちる。
世界が解け合う。
いままで見てきたものの景色が変わり
新しい世界が広がる。
もう迷いはない。
雲はいつのまにか晴れた。
また走りだす。
混沌は世界を産み落とした。
均衡の取れたキレイなキレイな世界を。
今までの世界を壊してきたこの脚で。