とても独特な彼女-1
私、ぬっ子。s学6年生。
秋の連休が過ぎた今週の日曜日は、隣の市のショッピングモールにひとりで自由行動してる。
ママとパパにここまで連れてきてもらって、あとは夕方近くにお迎えの連絡があるまで気ままに漂流。
私ん家ではこの自由行動を「放牧」なんて呼んでる。
私だってオトナのオンナにさしかかったんだもの。
ひとりだけで行動したい時があるし、たまにはママとパパに二人だけの時間を楽しんでほしいのね。
放牧の資金として電子マネーのカードを渡されてるけど、使うたびに二人に通知されるタイプ。
多少ゲームなんかでムダづかいしたって、叱られやしないけどね。
混まないうちに、早めにフードコートでお昼食べたら、ひとりのこざっぱりした装いの女の子に声をかけられた。
「……あなたもしかして、私と同じ6年生?」
「そうです……」
「さっきからひとりだけど、親と一緒じゃないの?」
「ええ、まあ……今日は『放牧』されてるんです。」
「『放牧』?」
「ウチじゃ自由行動のことをそう呼んでるんです。」
「なかなかユニークなお家ですね……」
女の子は、むっ子チャン。このモールのある市のs学校に通ってるって話してくれた。
そして「お迎えのご連絡があるまで、私と行動しませんか?」なんて言うんだ。
むっ子チャンは顔立ちも話ぶりも、私ほど怪しそうな女の子じゃないし、怪しいふるまいしたら逃げればいいだけだし、ちょっと冒険心をもって一緒に行動することにした。
▽
むっ子チャンは、私をモールの中央エリアにある「市民ホール」に連れてきた。
「私たちの市では、いくつかの学校が組んでこのホールでイベント開くんですよ。」
と言いながらむっ子チャンは、私の手を引いてホールの向かい側にある「ギャラリー」に入った。
ギャラリーでは市民創作展が開かれていた。
絵、陶器、彫刻、写真などが雑多に展示されている。
むっ子チャンは時々立ちどまって作品をジッと見ている。それはみんな絵の描かれた掛け軸だった。
「これって」私はむっ子チャンに聞いた。「水墨画、とかいう絵ですか?」
むっ子チャンは言った。
「それもあるけど『南画』って言われる絵ですね。……ここにはないけど私のおばあちゃんが、こういう絵を趣味で描いてるので好きなんです。ほら、」
むっ子チャンは絵の上の部分を指さした。
「『賛(さん)』って言うのか、絵に添えた漢字の詩とか和歌とかが好きなんです。……読めないけど。」
「あ、むっ子サンも読めないんですか……」
「でもおばあちゃんは、こういう漢字の詩を筆をよどみなく走らせてすらすらと書いてしまうんですよね……」
「すごいですね。」
「私、物心ついた時からそんなおばあちゃんの姿見てるもんだから、絵には何か漢字を添えるものだと思ってたんです。だから幼稚園でお絵かきすると、必ずデタラメな漢字の詩を書いてたから、先生から親に『間違えた字を覚えてしまうからやめさせて下さい』って注意があったりして……」
むっ子チャンはそんな話をしながら、私の腕をしっかりつかんでいた。