深夜のオフィスで (4)-3
こんなので首を縦に振るわけがないのはわかっている。口を割らせるのが目的ではなく、ただ妻が夫に嘘をつく姿を楽しみたい。歪みきった欲望だけで女を責め立てる。優しく誠実で美しい人妻の小狡い嘘ほどそそるものはないではないか。この女の見てくれが清楚であればあるほど、嘘は甘美な顔で、私の心を抉ってくる。誰もが羨む理想の美人妻は、一皮むけば最低最悪の欠陥中古妻である。口もまんこもアナルもすべての穴という穴が、さまざまな男に入れ替わり立ち替わり好き放題自由に利用されている。今日はまた八年ぶりに、職場の後輩男子が妻の身体の使用者として加わった。まさに性処理専用精液便所妻。
快楽に耐え、髪を振り乱し首を横にふる雌豚。
私は雌豚を跪かせ顔を上げさせる。目を真っ赤に腫らし口を開けて夫の射精を待つ女のあまりの健気さに思わずひるむ。なんだこの美しさと可憐さは。心の中で便所妻のくせにと毒づき自らを奮い立たせ、女の喉奥深くまでペニスをねじ込むと、汚濁液を流し込んだ。
*
ゆきが寝室へ戻ったので、私は録音の続きを確認する。
過去の浮気を突きつけられたゆきの抵抗は力を失い、もはや陥落寸前である。
「ほら、ここなんだか湿ってますよ」
「……ん、だめ………………」
どうやらオフィスでのゆきも下着に恥ずかしい染みを作っているらしい。いったいこの女は一日に何枚のショーツを汚すつもりだ。
「ゆきさんに迷惑はかけませんから」
「………………」
「八年前から今日まで、僕たちのこと誰にも言ってないしこれからも言いません」
「………………」
「二人だけの秘密です。ゆきさんの生活は何も変わりません」
「……でも…………」
「安心して。今だけは僕に身を任せてください」
「Yくん…………」
「ゆきさんも、忘れてないんでしょう?」
「……ぁ……!」
「あのときと同じ反応ですね。可愛い……」
「ずるい……そんなの……ぁあ……っ!」
ゆきが、堕ちていく。堕ちるゆきをYが追いかける。追いかけて捕まえて、また突き堕とす。キスの音。妻の身体がまさぐられている。またキス。衣擦れの音。男女の荒い息遣い――。
「ぁあ……はぁ、はぁ……」
「今だけでいいから……あのときみたいに僕を受け入れて……」
「ん、んん……ぁん……ぁあああ!」
「今日だけ、今夜だけです……。二人だけの秘密です」
「あぁぁんくぅ……! ぁああぁん、ぁふん!」
Yが言葉を重ねるたびに、ゆきの喘ぎ声は高く、鋭くなっていく。ピチャピチャ、グチョグチョという音まで響いてきた。
「あぁだめ、ぁああああ……やめてっ……ぁああああだめ、やめてやめてやめてだめ……ぁあああ……!」
その瞬間、ゆきは昇り詰めた。あとは堕ちるだけだった――。
*
静まり返った深夜のオフィスで、二人の男女の息遣いがわずかに聞こえる。
一切の会話はなくなり、椅子やデスクがギシギシいっている音だけの世界。否が応でも、イヤホンの向こうで繰り広げられている妻と他人の行為を想像させられるという地獄の時間。
ギシ――。
カチャカチャ――、ジーー、スルスル――。
スル、スルスル、スル、パツン――。
ギシ――。
「………………………………」
ゆきが小さく咳払いする音が聞こえた。
「……………………」
無音の世界に、何かが始まる雰囲気だけが充満している。
「……………………ん……………………」
チュ――。
ああいやだ、聞きたくない。
「ん…………ん…………」
チュ――。ペロ――。
「んん…………ん…………ん…………」
チュ――。ジュル――。ジュプ――。
妻が、Yの、ペニスを、少しずつ、着実に、口に、含んでいる。
おねがい、やめて。
「ん…………ん…………んん…………ん…………ん…………」
ペロ――。ペロペロ――。チュ――。ジュル――。ジュプ――。
「ん…………ん…………んん…………ぷ…………んむ…………ぁむ…………んむ…………ぁむ…………」
チュッパチュッパ、レロレロ、チュッパジュップ、シュポン、チュゥゥ――。
Yの肉棒をくわえ込み、頭を前後に動かし、亀頭に吸い付き舌を這わせる妻の姿がありありと脳裏に浮かぶ。
あぁゆき、もうやめて、もうやめて、もうやめて、もうやめて――。
「んぷ…………ぁむ…………んん…………ぁむ…………んむ…………ぁむ…………ぷ…………んむ…………んぷ…………ぁむ…………」
ジュッポジュッポ、ジュッポジュッポ、ジュルル、ジュププ、チュポン、ジュププ、チュポン――。